夢のような恋だった
14
智くんの家は、最寄り駅から徒歩で三十分くらいかかる。今は急いでいるので、駅前でタクシーを拾った。
住所を告げると、運転手さんは迷いもなく車を走らせる。車で五分も走ると住宅地が多い区画に入り、そこからは智くんが指示を出して、一件の家の前で停まった。
以前にも来たことがあるはずだけれど、あまり記憶には残っていない。
同じような宅地が並ぶ区画の中の二階建ての一軒家。
智くんの家は割と真っ直ぐな長方形で二階の部屋が多そうだ。
「ただいま。母さん、壱瑳」
「おかえり、智。……あら、紗優ちゃんも」
「おばさん、お久しぶりです」
驚いて目を見張るおばさんにペコリと頭を下げると、おばさんも軽く笑ってくれた……けど、なんだか目が笑っていない。
確かに、よくよく考えれば私は高校時代の彼を傷つけ、進路まで替えさせてしまった張本人なのだった。
おばさんの心証が良い訳が無い。
おばさんは私達をリビングに通してくれた。
おじさんと壱瑳くんがそれぞれに電話をかけていて、私は頭を下げるだけの挨拶をした。
おそらく、琉依ちゃんのお友達のところに虱潰しにかけているのだろう。
「どういうことだ。琉依、いつからいないんだよ」
「それがよくわからないのよ。……つか、智アンタなんて格好してるの」
「え? あ。……あ! いや、これはその!」
そういえば智くんはスーツ姿だった。
親に挨拶に行くのを知られたくないから前日家に泊まるって言ってたのに。