夢のような恋だった


 アパートの前に車を停めてもらい、みんなには下で待っててもらうことにして私だけが階段を上がった。

廊下に出て、やっぱりいた、とホッとする。
部屋の前、途方にくれたように座り込んでいる女の子。

声をかける前に、とりあえずここにいるよの意味で下に向かって右手で丸印を作った。


「……琉依ちゃん?」

「紗優ねえちゃん」


目が腫れてる。
私が近づいていくと、彼女は縋るような眼差しを向けつつも不安そうな顔をした。


「お兄ちゃんは?」

「今下にいる。先に私に話を聞かせて? そのために来てくれたんでしょ?」


琉依ちゃんは立ち上がると廊下の柵によりかかりチラリと下を確認した。


「お母さんの車……。もしかして壱瑳も来てる?」

「来てるよ。琉依ちゃんのこと迎えに。でもその前に話をさせてって言ってあるから私が呼ぶまでは来ない。皆心配してるんだよ、琉依ちゃん」

「……紗優ねえちゃん、どこまで聞いたの」

「何も聞いてないよ。ただ、壱瑳くんが凄く落ち込んでいたから、私は琉依ちゃんの気持ち聞いてるよって言っただけ。それだけで、壱瑳くん、琉依ちゃんがここにいるはずだってあてたよ。凄いね」

「凄いかな。ふつーじゃない? 私だって、壱瑳が何処行くかとかすぐ予想つくけど」

「双子だからかな。私はサイちゃんが何処でどうしてるとか分からないよ」

「……私は分かっちゃうんだよ。壱瑳のことは……」

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