夢のような恋だった
「うっさいわよ! アンタなんか大嫌い!」
そこに見えたのは、バリエーション豊かな沢山の顔。
一番近くに絆くんの怒った顔、サイちゃんの心配そうな顔、壱瑳くんの泣きそうな顔、智くんの呆れたような顔。
肩で息をしながら、琉依ちゃんが絆くんを睨む。
それを受けて、絆くんが口元だけを曲げて笑った。
「……やっと出てきたな」
「くっ……アンタってホント腹立つ」
呟いた琉依ちゃんは、絆くんの胸に勢い良くパンチを繰り出し……たかと思ったら勢いを無くして俯いて、ボロボロと涙をこぼし始めた。
伸ばした腕の先が、絆くんの服に触れる辺りで止まっている。
「大っ嫌い」
「俺も嫌いだ」
そう言いながらも、絆くんは琉依ちゃんの握りこぶしを、自分の手のひらで包み、自分の胸に押し当てた。
小刻みに震えた琉依ちゃんの腕は、やがて全身を震わせて。
俯いた彼女から、うめき声に似た泣き声が響く。
喧嘩からのこの雰囲気に、私は凄くドキドキしてしまう。
二人の間に誰も入れないような空気を感じて、私はおずおずとサイちゃんを見上げた。
サイちゃんは寂しそうに笑っていて、智くんと壱瑳くんが同時にポンと肩を叩く。
慰めなきゃいけないのは、どうやらサイちゃんのほうみたい。