夢のような恋だった
やかんのお湯が湧いてシュンシュンと音がする。
冷たいお茶の方がいいのかもしれないけど、これまた全員分はないから仕方ない。
おばさんは火を止めると私が出しておいた紅茶の茶葉の入ったティーポットに注いだ。
熱が伝わるのを確かめているのか、ティーポットの蓋のあたりの温度を確かめるように触る。
「私ね……心配してたの。智は馬鹿だけど優しい子よ。あなたに振り回されているだけなら別れさせなきゃと思ったし、思いあがりで同棲したいとか言われるのも気に入らなかった」
「す、すみません」
「あら、謝るんだ。悪いことしてるの?」
おばさんは壱瑳くんみたいに単調な口調で続ける。
まるで私を試しているかのようだった。
いや、試されているんだと思う。
どんなふうに私が返事するのか。
落ち着いて考えてみよう。
おばさんは智くんを育てた人だ。
真っ直ぐに心の深いところに入ってきて、本心の会話が出来る人を。
だとしたら、空気を和ませるだけの意味のない謝罪なんて、おばさんには使っちゃいけない気がする。
「いいえ。悪いことはしていません。高校時代に彼と別れたのは、私なりに彼の将来を案じてたからです。それは間違っていたかもしれませんけど、私は真剣でした。……今も、真剣に智くんが好きです」
「そう。そうね。あなたが遊びで智と付き合うような子なら、琉依があなたに懐くはずないものね」
「琉依ちゃんですか?」
思わずリビングの方を見る。
私、琉依ちゃんに懐かれてたの?