夢のような恋だった
続いて歩きながら、こぼさないように細心の注意を払いつつ告げると、おばさんは本当に小さな声で呟いた。
「……参るわねぇ」
「は? 何?」
反応するのは智くんだ。
「智になんか言ってないわ。アンタのはこっちよ」
「これご飯茶碗じゃねぇかよ」
「カップが足んないんだから仕方ないでしょう。いずれ自分たちでちゃんと揃えなさい」
「え?」
智くんが目を丸くしておばさんと私を交互に見る。
何があったの、と問いかけるように。
私もなんとも答えられなくてただ首を振った。
「前に同棲したいって言ったわね。いいわ。もう大人だし、アンタたちに任せる。でもけじめのつかないことはしないのよ。いいわね」
おばさんの表情は今私の方からは見えないけれど、智くんの顔が笑顔になっていくのが見えて、私まで口元が緩んでくる。
「母さん、ありがとう」
「ありがとうございます」
背筋を伸ばして出した声は、智くんの声と重なった。
琉依ちゃんの話をするはずだったのに、思わぬところでおばさんの心を溶かすことができたみたい。