夢のような恋だった

壱瑳くんは手を伸ばして、隣に座る琉依ちゃんの服の裾をキュッと握った。
不貞腐れた顔をしていた琉依ちゃんの眉が下がる。


「……私の事、もう嫌なんじゃないの?」


ポソリと言う琉依ちゃんに、壱瑳くんは首を振った。


「琉依は琉依だから」


琉依ちゃんはただ黙って壱瑳くんを見つめていた。
空気が固まったのを感じて、私達の会話も途切れついつい二人を見守ってしまう。


「……俺のねえちゃんだから」


その言葉は、琉依ちゃんが求めていた答えとはおそらく違うだろう。

それでも、体は小刻みに震わせながら彼女は何度も頷いた。

おばさんは静かに席を立ってキッチンの方へ行き、智くんは困ったように私を見つめて。
サイちゃんと絆くんは、ただ黙って違う場所を見つめていた。

ずっと一緒に過ごしてきた誰よりも近い二人に、私達の誰もうまい言葉なんかかけられない。

壱瑳くんは琉依ちゃんの肩がどれほど震えても、服を掴んだその手は離さなかった。
ただ、彼女の心が落ち着くのを待っている。

恋愛に、いいも悪いもない。

琉依ちゃんは今、普通に失恋したんだ。
姉弟だからとか関係なく、一人の女の子が一人の男の子に振られた。

きっと、それだけのことなんだろう。


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