夢のような恋だった



 そんな沈黙が続いてから十分後。おばさんが明るい声の調子で部屋に戻ってきた。

「もうお昼も随分過ぎたわよ。お腹すいたわ。今日はおばさんがおごってあげる。さあ、ついてらっしゃい」

言われて、「お、いいねそれ」と明るく立ち上がったのが智くん。

サイちゃんと絆くんは顔を見合わせて、おずおずと立ち上がった。
私もそれに続くように出て、玄関の前で壱瑳くんと琉依ちゃんが来るのを待つ。

そこまで来るまでに、琉依ちゃんは心の整理が出来たのか、「紗優ねえちゃん、ありがと」と笑ってくれた。


 八人乗りの車も、男子高校生が三人もいると窮屈だ。
なんとなく空気が悪い車内に、智くんが出発数分で窓を開けた。


「何かスミマセン。俺関係ないのに」


絆くんはおばさんに何度も頭を下げる。


「いいのよ。琉依のためにここまで来てくれただけでおごる価値はあるわ」

「イヤ別にコイツのためってわけじゃ」

「よく言うよ、無理矢理ついてきたくせにさ……ぐえっ」


ぼそっと告げたサイちゃんに、絆くんが横から肘鉄がはいる。

絆くんも久しぶりに見たけど、随分男の子っぽくなったんだなぁなんて改めて思う。
なんとなく、お父さんと達雄おじさんの若いころを見てるようで、とても不思議な気持ちになった。

大人数で入れるところということで手近なファミレスで食事をした後、おばさんは駅前でサイちゃんと絆くんを下ろす。


「紗優ちゃんは一緒に家に来なさい? 予定はないんでしょ?」

「え? ありませんけど」

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