夢のような恋だった


「……顔見せてやってくれないか。紗優の本当の父親だ。名前は優(ゆう)さん。紗優の名前は彼と紗彩から一字ずつとっている」

「この人が?」


智くんは、食い入るように位牌と並ぶ写真を見ている。
もう色あせてしまったパパの写真。
私の記憶には残っていない実の父親。


「……俺は紗優を本当の娘だと思ってるよ。でも彼が紗優の父親だというのも事実だ。だからどこかでは紗優は預かり物だという気持ちもある。
俺から他の男に渡すときは、そりゃあ厳しい目で見てやろうと思ってたんだ。紗優に『お父さんなんか大嫌い』って言われるのも辞さないつもりだった」

「おじさん」

「でも紗優が選んだのは君だろ? 反対なんかできなかったな。俺は君と紗優が小さな頃から見てるからな。ずっと……紗優にとって君は特別だった」

「俺……」


お父さんが、智くんに微笑みかけた。


「紗優は贅沢なんかは望まないだろう。物欲もそんなにない。ただ……人の和には敏感だ。
喧嘩をしてもいい。泣かせてもいいよ。でも必ず仲直りしてやってくれ。傍にいて、安心させてやって欲しい。あの子をそれだけで幸せになれる。俺が君に望んでいるのはそれだけだよ」

「おじさん」


戸惑った声の智くんは、お父さんとパパを見比べてその中間地点で頭を下げた。そのままずっと顔を上げない。


「俺、ちゃんと彼女を幸せに出来るでしょうか」


不安そうな声に、一瞬心臓がザワザワする。
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