夢のような恋だった


「……って感じなんだけどどうかな」


ドキドキしながら彼を伺うと、彼は無言でペンキを塗り続けていく。


「……離れちゃうの?」

「うん。でもまた会えるよ」

「だったら、俺はキラが自分の中に戻ったらいいなって思うよ」

「え?」

「紗優の一部分がいつもここにあったら、多分頑張れる」


胸の辺りをさしてそう言う。

そうかな。
そうかも。

智くんの一部が私の中にあったら、いつだって迷わずにいられるかもしれない。


「……そうだね。じゃあそうしようかな」

「うん」


気恥ずかしくて顔も合わせないまま、私達はペンキを塗り続けた。

涙声になってしまうのは、鼻にツンとくるペンキの匂いのせいにしよう。

幸せすぎるからと言うのは、あまりに恥ずかしすぎるから。



< 240 / 306 >

この作品をシェア

pagetop