夢のような恋だった
「……って感じなんだけどどうかな」
ドキドキしながら彼を伺うと、彼は無言でペンキを塗り続けていく。
「……離れちゃうの?」
「うん。でもまた会えるよ」
「だったら、俺はキラが自分の中に戻ったらいいなって思うよ」
「え?」
「紗優の一部分がいつもここにあったら、多分頑張れる」
胸の辺りをさしてそう言う。
そうかな。
そうかも。
智くんの一部が私の中にあったら、いつだって迷わずにいられるかもしれない。
「……そうだね。じゃあそうしようかな」
「うん」
気恥ずかしくて顔も合わせないまま、私達はペンキを塗り続けた。
涙声になってしまうのは、鼻にツンとくるペンキの匂いのせいにしよう。
幸せすぎるからと言うのは、あまりに恥ずかしすぎるから。