夢のような恋だった

「中牧さんが書けって。昨日読んで書いたの。……色々、ごめんね。私達誤解してたかも。葉山さんの書くお話って最後は優しい気持ちになる。なんか、……葉山さんってそういう人だったよねって思って」

気恥ずかしそうに言う彼女に、胸が詰まって目頭が熱くなる。
じんわりしていたら中牧さんの鋭い声が飛ぶ。


「葉山さん! レジ!」

「あ、はいっ」

「中牧くんも反省してるみたいよ」


ポンと背中を押されて、零れそうになる涙を堪える。

これからレジ。
接客するのに泣きそうな声だしちゃダメだ。


「すみません。ありがとうございました」


あれ、と絵本を指さすと、中牧さんはフイと顔を逸らして言う。


「……せっかく作者がいるのに、押さないなんて馬鹿だろ。売れたらサイン会とかタダでしてもらうから」

「そうなれたら嬉しいです。頑張ります」

「うん。頼むね」


心なしか、中牧さんの声は優しい。

一度は辞めてもいいかもと思ったけれど、辞めないで良かった。

諍いあうことも傷つけあうこともたくさんある。
それが人間関係だ。

だけど、いつか和解できる場合だってある。

全てがうまくいくことは珍しいのかも知れないけれど、諦めなければ“いつか”は必ずある。
そんな風に信じたい。



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