夢のような恋だった
式の前日はお互い実家に帰ろう。
それは、ずっと前から智と決めてきたこと。
一緒にいたいという思いが先立って同棲を始めてしまった私達だけど、結婚する前にちゃんと家族に挨拶したいいうことでは意見が合致した。
というわけで、挙式前日の土曜日、私は朝から実家へと戻ってきていた。
夜はこのまま実家に泊まり、明日式場に集合する予定だ。
だけどいざ帰ってきてみると、気恥ずかしくて嫁入り前の挨拶なんて言えないのが現実。
「いよいよ明日ねぇ」
お母さんが着物ハンガーにかけた紋付きの黒留袖を眺めながら言う。
これはおばあちゃんから譲り受けたものなんだと教えてくれた。
おばあちゃんはここ数年足を悪くしていて、当日は洋装で出席してくれるらしい。
「なんで俺は制服なわけ?」
「学生の正装は制服だろうがよ」
リビングで言い合っているのはお父さんとサイちゃん。
高校で急に身長が伸びたサイちゃんは、大きめに作ったはずの制服が高二にして小さくなってしまっていてちょっと恥ずかしそう。
「どうせ琉依ちゃん達も制服じゃない」
「琉依はせっかくだからワンピ着るって言ってた。壱瑳は、面倒くさいから制服って言ってたかな」
「じゃあいいじゃない」
「良くないの。格好つけたい」