夢のような恋だった
** **

 
「ただいま」


式の前日、家に帰ると俺を出迎えてくれたのは父さんだけだった。


「おう、お帰り、智」

「父さんだけ? 双子と母さんは?」

「琉依は美容院、壱瑳はバイト。母さんは町内の集まりに行った」


なんだそりゃ。
確かに、式の前日はお互い実家の家族と過ごそうと言ったのは、どちらかと言えば紗優の両親に対しての配慮ではあったのだけれど。

うちの家族は薄情過ぎないか?


「まあまあ。入れ。どうだ。一年も住めば新居って感じでもないだろうけどな」 

「ああ。まあね……つか。家のいらないもん、俺のところに持ってくるのやめろよ。食いきれない」

「母さんが、琉依が行くのに手ぶらで行かせるわけにいかないっていうからさ」

「俺、甘いもん食えないのに。紗優が太ったらどうすんだよ」


俺達の部屋には、月に数回は訪れる琉依によっていろいろなものが持ち込まれる。

主に菓子の類だが、時々本気でいらないような置物などが持ってこられる時があり、その時はさすがの紗優の顔も引きつっている気がする。


「じゃあ今度からはせんべいにさせるよ」

「それもダメ。食い切る前に湿気る」

「まあそう言うなよ。母さんもあれで心配してるんだ。様子見てこいって琉依に指令を出してる」


心配はありがたいと思わなきゃいけないのだろうけど。

いや、うぜーだろ。
俺もう大人だし、もっと紗優とベタベタしていたいのに琉依も頻繁に来すぎる。

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