夢のような恋だった
穏やかそうに笑う父さんを見ていると湧き上がる一つの疑問。
母さんがいないならチャンスだし聞いてみるか。
「……つーか、なんで父さんは母さんを選んだの?」
「ん?」
「だってさ。陸上のスター選手だったならモテたんだろ?」
「スター選手だった期間も短いけどな。大学で故障してそっからは転落人生だ」
「でも母さんじゃ優しく慰めてくれたりしないだろ。むしろ叱られそう」
「智、鋭いな。でも俺は美由紀の格好良い所が好きなんだよ。一緒にメソメソ泣かれてもさ、落ち込んでくだけだろ」
「そうかな。俺はあそこまで厳しいとちょっと引く……」
「さーとーる」
背後から地を這うような重厚な声がする。
反射的に振り向いて、手近にあった新聞で頭をガード。
間一髪、振り落とされた母さんの手刀は新聞の上に落ちた。
「あぶねぇ、あぶねぇ」
「アンタって子は、たまに帰ってきたかと思ったら母親の悪口とか。いい根性してんじゃないの」
「別に悪口じゃないし。好みの話をしてただけだよ。母さん、町内の集まりじゃないの?」
「智が帰ってくるからって、挨拶だけして帰ってきたのよ。なのにさぁ、どうなの、このバカ息子」
母さんの勢いに押されそうになった時、またもや玄関先が騒がしくなる。
「ただいまー。あ、お兄ちゃんもう来てる。ねぇねぇ、見てよ。ほらどう? カワイイ?」
けたたましく入ってくるのは琉依だ。
美容院に行ったって言うけど、そんなに変わったか?
前髪をちょっと切った……くらいしか俺にはわからないのだが。