夢のような恋だった
「……紗優」
「お母さんには分からないよ。……私はもう、綺麗な恋なんて出来ない」
慰められるのも叱られるのも嫌で、私は逃げ出そうと立ち上がった。
お母さんはそれを咎めるでもなく、プレゼントの鞄を持った私の背中に語りかけた。
「お母さんもそう思ってたわよ?」
思ってもみない言葉に、背筋がゾワッとして顔だけ振り向いた。
お母さんの方は至って冷静な顔だ。
いやむしろ挑戦的にさえ見える。
「……私もそう思っていたのよ。優を……あなたのパパを亡くしてからね。紗優が思ってるほど、私は綺麗じゃないわ」
「どういうこと?」
「お父さんに会うまでの私は、今の紗優より酷かったってことよ」
挑むように言い放ったお母さんに、中途半端な私の反抗心をへし折られたような気がした。
私はお母さんの前まで戻り、もう一度座り直す。
「……聞いてもいい話?」
「長くなるわよ? 今日は泊まっていけば?」
私が身を乗り出したらようやく笑った。
一瞬迷ったけれど、どうせこのまま帰っても陰鬱と時を過ごすだけなのがわかっていたので、私は小さく頷いた。