夢のような恋だった
私の記憶にある再婚する前のお母さんは、いつも寂しそうに仏壇に語りかけていた。
あの頃のお母さんには何があったのか。
私の知らないお母さんの闇を聞いてみたかった。
「大丈夫。それより話してよ。気になって仕方ないもん」
私が先を促すように言うと、お母さんは苦笑した。
長い髪を、もてあそぶように指に絡ませて。
何度か口を開いては閉じ、ようやく話し始める。
「お父さんのお友達で、達雄おじさんっているでしょう?」
「うん」
「優を失ってから英治くんと付き合うまでの間、……私は彼と契約恋愛してたの」
目を伏せて、気まずそうに告げるお母さん。
私はその言葉自体が理解できなかった。
ケイヤクレンアイって何?
言葉が実態を持たないまま頭のなかをぐるぐる回る。
「……契約って何?」
ようやく口から吐き出すと、お母さんはバツが悪そうに頭をかく。
それは“お母さん”と言うよりは、知らない女の人のように見えた。
「言ったまんまよ。契約でお付き合いしてたの。……私も彼も、好きな人が他にいたから」
「お付き合いって好きな人とするものでしょ?」
「そうね。それが出来なかったから、私達は二人で慰めあっていたの」