夢のような恋だった

「じゃあどうしてお父さんと付き合うことになったの?」

「きっかけは紗優よ。偶然紗優を連れて水族館に行った時にあっちも来ていて。
英治くんもね、お母さんを早くに亡くしているから、紗優のことが心配で放っておけなかったんだわ」

「私?」

「うん。英治くんはね、あの頃の紗優を多分いちばん理解してくれた人なんだと思う。紗優の心を満たしてくれて、私はやっと力を抜くことが出来て。
……気がついたらもう彼に恋をしてた。そうしたらね、もうできなくなったのよ、契約でお付き合いなんて」


遠くを見るようなお母さんの瞳が潤んでいる。

やっていることを汚いと思っているのに、その姿はもう五十歳にもなるお母さんを綺麗に見せた。

今のお母さんは“女”の顔をしている。
お父さんに、今も恋をしているから?


「それで、達雄おじさんとは別れたの?」

「そう。ちょうど潮時だってお互いに思ってもいたし」

「それですぐお父さんと付き合えたの?」

「色々はあったけどね。英治くんは私を選んでくれた」


ズルい。
不思議とそんな風に思った。


どうしてお母さんは選ばれるの。

好きな人がいて曲がった付き合いをして、それで次に本気で好きな人が出来てすぐ付き合えるなんて。
ズルいよ。お母さんは綺麗だからそうなの? 


< 37 / 306 >

この作品をシェア

pagetop