夢のような恋だった
「何か、都合いいね。お母さんに」
批難が口調にでているからか、お母さんは終始寂しそうな顔で私を見ている。
「そうね。……なんて言われても仕方ないわ。
でも人間ってね、どんなに汚れてからだって、諦めなければ幸せになれるのよ。
私が言いたいのは、紗優に諦めてほしくないってこと。
まだ二十四歳でしょう? これからよ」
「私はもう無理だよ」
「自分から諦めていたら何も手に入らないわ」
「無理なの」
イライラが止まらなくて、頭からタオルケットをかぶった。
暑い。すぐ汗が滲んでくる。
でも顔を見せたくない。
お母さんは、タオルケットの上からそっと私の頭を撫でた。
「紗優。……まだ智くんが好きなんじゃないの?」
小さな声で呟かれてますますイライラする。
「そんなんじゃないから。智くんの話しないで」
「だって。お別れした理由も聞かせてくれなかったじゃない」
「言う必要無いでしょ。私にだってプライベートあるんだよ」
自分は今お母さんの秘密を聞いたくせに。
そう思ったけど、だからといって自分が話す気にはなれなかった。
私はそのまま汗だくになりながら、丸くなる。
お母さんはため息を付いて、「母さんいないほうがよく寝れるでしょ?」と電気を消して部屋を出て行った。