夢のような恋だった
「こんなんじゃダメ。もっと……」
もっと……?
私はどうしたいの?
自分の考えがまとまらない。
それでも締め切りは待ってくれないから、無難と思える色を塗りつけていく。
こんな妥協を覚えたのは一体いつからだろう。
「……どうしてこんなふうになっちゃったんだろう」
筆を置いて、机に頭を伏せた。
お母さんの電話のせいかもしれない。
今の自分がこんな風に嫌に感じるのは。
そして、考えないようにしていたはずの彼のことを思い出してしまうのは。
夢のような恋だった。
優しくてフワフワした砂糖菓子みたいな。
私の人生の甘さは、もしかしたらあの時期に一気につぎ込まれていたのかもしれない。
今苦い思いばかりしているのはきっとそのせいだ。
彼との恋が終わりになるなんて、あの頃は考えたこともなかった。
私はずっと自分の心に嘘はついていない。
いつだって本気で必死で。
それは彼だってそうだったろう。
だから、敢えて原因を探るのならば、
私達が大人になったということだったのだろう。