夢のような恋だった
それから二時間ほど、私は作業に没頭した。
それでも、まだ完成には至らない。
「紗優、まだ描いてんの?」
彼はビールを飲みながらそう言った。
テーブルには、もう六本ほどの空の缶が積まれている。
「締め切り近いって言ったでしょ」
「折角泊まりにきたのに」
「今日はダメよ。帰って。駅から近いからって利用するのやめてよ」
「利用してるわけじゃないよ。紗優に会いに来ているのに」
そう言って彼は再びビールを口に含む。
そういう言葉、簡単に言ってるくせに。
彼に不満を感じるのと同時に、分かってて沈黙を保つ自分にも腹が立つ。
衝動的に、こんな関係ぶち壊してしまえばいいと思った。
画面から目を逸らさずに、口だけで返事をする。
「そういうの、梨絵ちゃんって子にも言ってるんでしょ?」
「は?」
「この間寝言で言ってたよ、『梨絵』って」
彼の考えなんて、表情を見なくても分かる。
きっと今頃必死で頭を巡らせて、上手くごまかす方法を思いついて……。
「馬鹿、梨絵ってのは親戚の子で……」
「合コンでお持ち帰り? 茂くんが言ってた。草太くんが気に入った女の子と抜けてったって」
草太くんは眉を寄せただろう。見なくても分かる。部屋の中の空気が硬くなった。