夢のような恋だった
「本当になんでもないの。ただ、悲しくなって泣いただけ。茂くんに会ったのは本当に偶然だし、草太くんが気にすることなんて何もない」
「じゃあなんで逃げる?」
それには答えられなかった。
ただ、今は草太くんに触られたくない。
智くんの伏せた瞳が、くせのある髪が、私を傷つけた『はじめまして』の言葉が、頭の中で何度も再生されて消せない。
「仕事……したいの。今日は帰って」
草太くんは明らかにむっとして私を睨んだけれど、やがて「ハイハイ」と諦めたように両手を上げた。
「なんでいつもそうなんだよ」
「え?」
吐き出された声はいつもより重く小さなもので、私は彼の声を聞き取るために身を乗り出した。
「紗優は俺の浮気を責めるけど。紗優だって同じじゃない? いつも何も言わない。俺には関係ないってシャットアウトする」
「だ、だって。本当に関係ないもん」
そうだよ。
智くんのことは、草太くんに関係ない。
元カレだとしても、別にどうこうなったとかそういう訳じゃないし。