夢のような恋だった


 それから数日。
混乱中の私はなかなか仕事が進まない。

特に主人公の少年像が全く思い浮かばなくなってしまった。

脇役に当たる人物や、不思議な世界の住人たちは大体描けたけれども、主人公が決まらないと山形さんにも見せられない。


その日、終わらないキャラクターデザインが気になりつつ、私はアルバイトの本屋へ向かった。
少年コミックの発売日だからレジが忙しそうだ。


「葉山さん、シュリンカーお願いできる?」

「はい」


正社員の中牧さんに声をかけられ、整理中の棚をひとまずそこで終了し新刊を積んだカートを預けられる。

シュリンカーとはコミックにビニールがけをする機械で、ウチの店ではレジカウンターからは離れた売り場奥の陳列台に置いてある。

慌ただしい雰囲気のあるレジから離れられるのはありがたかった。


一日の仕事が終わる頃にはぐったりで、重い足を引きずりながらアパートまでの道を歩く。

今日の晩御飯は途中のコンビニで買った冷やし中華。
これを急いで食べて、キャラクター原案の方をまとめてしまおう。

と、意気込んだのもつかの間、部屋の入口の前に人影が見えて、私は思わず立ち止まる。


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