夢のような恋だった
壱瑳くんは単調な口調で彼女に呼びかける。
やがて、琉依ちゃんのほうが根負けしたように壱瑳くんの袖口を掴んだ。
「……うん」
その返事に、壱瑳くんはようやく笑顔を見せて、私に「夜分にすみません」とペコリと頭を下げる。
「それはいいんだけど、走ってきたの? 帰り大丈夫?」
「大丈夫。まだ電車あるし」
答えたのはサイちゃんだ。
「お父さんに迎えに来てもらえば?」
「いいよ。高校生にもなって親に頼るのダセェ」
そうか。普通はそういう感覚か。
私は高校の時、親に頼りすぎていたかななんて思う。
「もう遅いし帰るよ。ねーちゃん、またな」
「紗優ねえちゃん」
琉依ちゃんが縋るような目で見るから、私は彼女に手を伸ばした。
「また来てね。待ってる」
「……うん」
壱瑳くんに引っ張られていく琉依ちゃんを見ながら、複雑な気持ちになった。
彼女の一番の理解者は壱瑳くん。
とても仲良しな双子の姉弟。
もし本当に、琉依ちゃんが壱瑳くんに恋心を抱いているのなら、それはどれだけ苦しいことなんだろう。
これ以上どうにもならない恋なんてないよね、と思いながら、自分の恋を振り返る。
私は甘えてる。
自分で終わらせたはずの恋に未練がましく傷ついて。
新たに始めたはずの恋にまで傷をつけてるんだ。
もっとしっかりしなきゃいけない。
少なくとも、自分の気持ちだけはハッキリさせなくちゃ。