夢のような恋だった

自分の気持ちがよく分からない。
草太くんのことはまだ好きだ。心が切り裂かれるような感情もある。

だけどどこか冷静な自分が居るのも事実だ。

“彼なら多分しない”と思う自分がどこかにいる。

浮気の恋なんて出来ない人。
いつだって本気の気持ちで動く人。
私がもう無くしてしまった人。



「また来るよ。落ち着いたころ話そう。……ホントに、紗優が一番好きなんだ」


黙っていたら、草太くんは部屋から出て行った。
残ったのは、テーブルに残されたままのビールとおつまみ。


「……一番好きなのに、どうして浮気なんかできるの」


理解できない。
でも、一番好きでも別れることはできると思う。

私は実際、それを昔やった訳だし。


「……智(さとる)くん」


目をつぶると思い出すくせ毛の彼。
もう笑顔は思い出せない。
いつだって脳裏に浮かぶのは、一番最後の傷ついた顔ばかり。

弟同士が友達だから気まずい、という理由で始めた一人暮らしはもう六年ほどになる。


今はどうしているのかしら、なんて想像するのもきっと失礼だ。

私は、自分から彼の手を手放してしまったんだから。



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