夢のような恋だった

 生け垣に座ったまま更にしばらく待っていると、草太くんが走りながら駅から出てきた。
私を見つめて、柔らかい笑みを浮かべて近寄ってくる。


「紗優」


久しぶりに会った草太くんは少し雰囲気が変わった。
前よりも優しくなった気がする。


「どこか喫茶店でもはいってりゃいいのに。危ないだろ」

「平気」

「久しぶりだな。会いたかった」


智くんはきっともう二度と、こんなふうに私との再会を喜んではくれない。
そう思ったら、挫けそうになる。

でも。
嬉しいけれど、ドキドキはしない。

安らぐけれどそれはいつも一過性のものだ。


智くんの時とは全然違う気持ちだって、最初からわかっていたのに。
それでも縋ったのは私が弱いからだ。

ごめんなさい、ごめんなさい。

でもこれ以上、自分のことを嫌いになりたくない。


「紗優?」


俯いたままの私を草太くんが覗きこんでくる。


「……草太くん、ごめんね」

「え?」

「電話したのは、お別れを言う為だったの」

「は?」


彼の声とともに空気も固まった。


「別れて」

「なんでだよ。浮気のことは許すって言ったじゃないか」

「うん。そうじゃなくて。……私」

「やっぱり何かあったんだろ? 俺には話せない?」


話す義務はあったかどうかは分からない。

ただ、私は他に彼を納得させるだけの理由を説明できなかった。


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