夢のような恋だった
「昔の彼にあって。……気づいたの。私、草太くんに恋をしてないって」
「意味が分からない」
「恋じゃなくて。甘えてただけだったんだよ。寂しさを紛らわせたいだけだった。多分」
そうだ。お母さんのように。
擬似的な恋に救われてた。
草太くんは私の肩を掴んで立たせた。視線が絡む。責められているようにも怒っているようにも感じられた。
「昔の男が出てきてヨリを戻そうって?」
「違うの。そういうんじゃない。彼には……多分嫌われてる。でも、私はまだ好きなんだって、再会して分かっ……」
最後まで言えなかったのは、草太くんの手が私の頬を打ったからだ。
頬の周りがじんじんとして、一瞬視界に火花が飛ぶ。
頬を叩かれたなんて初めてで、私の頭は真っ白になった。
「自分は人の浮気にあれだけゴネておいて。何言ってんだよ、今更」
草太くんの目が釣り上がる。元々つり目気味だから迫力が増して怖い。
「俺は、他の女皆切った。これからは紗優一人を大事にしようって思って。
あんなふうに浮気を詰られたのは初めてで。だからこそ、紗優のために変わろうって思えたんだ。なのに」
「ご、ごめん、なさい」
「なんで逃げようとするんだよ! 紗優」
「あ、あの」
歯の根が合わずに、ガチガチと音を立てる。
周りの人がザワザワと私達の周りを囲むように立ち止まった。