夢のような恋だった
「ねーちゃん、頬大丈夫?」
「サイちゃん。……え? どうして」
「近くにいるって言ったじゃん。こんな大声で騒がれたら気づくよ」
私達が話している間に、草太くんともう一人の人物も怒鳴り合っていた。
「なんだよ。離せ」
「女殴るとか最低だなアンタ」
さっきは自分も一杯一杯で見えてなかったけれど、暗がりの中、草太くんと睨み合う男の人の輪郭が見えてくる。
くせ毛の髪、背の高い草太くんに負けないくらいの背丈。
くりっとした目は今は細められて、苛立ちを全身から放っている。
嘘。
智くんだ。
急激に涙が盛り上がってくる。
怖さでは泣けなかったのに安堵ではこんなに簡単にでてくるの?
智くんが私の為に動いてくれた。
信じられなくて、何度もまばたきをする。
近寄ろうと自然に足が一歩前に出たけれど、それはサイちゃんによって止められた。
「俺達は付き合ってんだ。他人が口挟むなよ」
「他人でもない。あそこのアイツは彼女の弟だ」
智くんがサイちゃんを指さす。
琉依ちゃんは私をかばうように腕にギュッとしがみついた。
「紗優ねえちゃんを叩くなんて最低」
「そうだよ。アンタ、ねーちゃんの彼氏? 暴力ふるうようなら別れてよ。俺のねーちゃんに酷いことすんな」