夢のような恋だった
「……男の趣味悪くなったんじゃないの」
「なっ」
いきなりその一言。
返す言葉が思いつかなくて、私は半泣きのまま黙り込んだ。
だけど、……無視はされなかった。
ちゃんと話しかけてくれた。
「彩治、家まで送ってやれよ。琉依、帰ろう」
すぐに背を向けてしまった智くんに、少し浮き上がった気持ちがまた沈む。
やっぱり、ダメか。
沈んだ気持ちを受け入れようとした時、目の前の琉依ちゃんが叫んだ。
「お兄ちゃん、逃げんな!」
ようやく散り散りになりそうだった周りの人達が、また立ち止まる。
智くんもぎょっとしたような顔をしてこちらを見た。
「る、琉衣ちゃん」
「喧嘩別れのままってよくないよ。別にヨリ戻さなくたっていいから話せばいいじゃん」
「何にも知らない奴が口はさむなよ」
智くんの声が冷たい。
こんな風に威圧するような言い方をする人じゃなかったのに。
「何にも知らないのはお兄ちゃんの方でしょ!」
「……っ、うるさい! 彩治! 悪いけど、琉依も頼む」
「こらー、お兄ちゃん!」
すぐさま走りだした智くんは、昔と変わらず足が速い。
あっという間に小さくなって、見えなくなってしまった。