ジャスミン
マンションを出ると、まだ颯太郎の姿は見えない。「まだかな？」と駅の方向を見つめていると、背後から声が掛かった。

『もう着いてるよ。』

いきなりの声にビックリしながらも振り向くと、先程からマンション前に路駐していた車から颯太郎が降りてきた。

『えっ？車あったの？』

初めての車の登場にてっきり、電車で移動するとばかり思っていた茉莉は心の声をすぐさま出してしまう。

『普段は電車の方が便利だから、車は休みの日にしか乗らないんだ。早く乗りなよ。』

颯太郎はそういうと運転席に回り込んだ。

茉莉も恐る恐る車に近づくと助手席のドアの前で止まる。

(私、助手席乗って良いんだよね？)

彼女という立場上、問題はないのだが、自分からドアを開けることをためらっていると、勝手にドアが開く。

驚きながらドアを開けた颯太郎の顔を見上げる。

『どうぞ、俺の彼女の指定席です。』

冗談を交えて微笑まれたことで、恥ずかしさと嬉しい気持ちで余計なことを考えずに乗り込むことができた。
< 147 / 348 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop