ジャスミン

（…やっぱりお似合いだよ。）

心の奥に潜む劣等感が顔を出す。茉莉は誰にも気付かれないように、俯きこっそり溜息をついた。


コツン

自分の足先に何かが当たるのを感じ、さり気なく確認すると見えるのは黒の革靴。

コツン。再び優しくまた茉莉の靴に振動が伝える。茉莉は顔をあげて革靴の持ち主を見ると颯太郎が穏やかな表情で 微笑んでいた。

『大丈夫だよ。』声には出さないがそう言ってくれているようだった。そしてその魔法は茉莉の心に浸透していき、温かい感情がみるみる湧き出てくる。

颯太郎は茉莉の心の内の変化に気付いてくれたのだろう。「自分を見ていてくれている。」それが茉莉の自信に繋がったー茉莉はニコッと微笑み返した。


（ありがとう。もう大丈夫だよ。）

そんな気持ちも届いたのか、颯太郎の足は定位置に戻り、打ち合わせが始まった。

それと共にあの二人と向き合う時が意外と早くやって来ているのを知ることになるのだった。