ジャスミン
〜茉莉〜

日曜日。
此処はスーツケースを持った人が行き来する空港のロビー。茉莉はこれから日本を離れる佐伯部長を見送る為にやって来た。

本当は自分はそんな立場にないと自覚していたが、金曜日の送別会で部長から『香苗が会いたがっている。』と苦笑いを浮かべながら言われたことで、見送りに来ることを決めた。

『わざわざ悪かったな。』

佐伯部長が頭をポリポリかきながら茉莉に礼を言う。

『いえ、私ももう一度しっかり奥様に挨拶したかったので。』

そう伝えると隣りに立つ香苗に視線を向ける。

『そう言って貰えて良かったわ。』

香苗は茉莉に近寄ると、耳元で囁く。

『実は赤ちゃん出来たの。』

『…?…えぇっ⁉︎本当ですかっ!おめでとうございます‼︎』

香苗は茉莉の反応にはみかみながらお腹に手をあてる。その様子に佐伯部長も何を伝えたのか分かったようで顔が紅く染まる。

『本当に嬉しいです。元気な赤ちゃん産んでくださいね!…お元気で。』

茉莉は二人が心から繋がりを取り戻したことに安堵し、必死に涙を堪えながらお別れの挨拶をした。
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