ジャスミン
『え?そうですが…どちら様ですか?』

明らかに怪しいいでたちの人たちに警戒心たっぷりに様子を伺う。

『失礼をご容赦ください!』

そう言い終えると同時にその黒い塊たちは茉莉の周りを囲み、すぐ横に停められていた高級車に茉莉を押し込む。

『え、嫌!ちょっと、だ、誰か…‼︎』

茉莉を乗せると車は否応なしに走り出した。茉莉の両サイドにはしっかりと男たちが座り、何の抵抗も許されない空気が車内を埋め尽くす。

恐怖心が身体全体を支配し、これから自分の身に降りかかることへの不安な気持ちが時間ごとに増長していく。


窓の外の景色は流れ、先ほどまでの部長夫婦との温かいやり取りは頭の隅に追いやられ、茉莉にはもう真っ暗な未来しか想像出来なくなって来た頃、車はスピードを緩め停車した。

ドアが開けられ、外に出るように促せられる。茉莉は何とか自分を奮いたせながら足に力を入れる。

外に出ると冷たい空気が身体を纏い、身震いをした。
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