ジャスミン
恐らく茉莉を連れて来るよう指示したのは母親で間違いないだろう。颯太郎は何をしでかすか分からない実母のことを想像すると頭を抱えた。

『まぁ、あの人なら颯太郎に彼女が出来たことなんてすぐに気づきそうだしな。』

幸太郎は颯太郎の心中を察するかのように代弁する。

『早紀江さん、ぶっ飛んでるから…茉莉ちゃん大丈夫かな。』

幼馴染だった京子は母親のことをよく知っているだけに茉莉を心底心配する。


『取り敢えず、俺行って来る。』

居ても立っても居られなくなった颯太郎は席を立ち上がると、店の出口に向かって小走りで歩き出す。

『おいっ颯太郎!』

幸太郎に呼び止められ、足を止めると振り返る。

『今のお前なら大丈夫だ。もし何かあったらいつでも頼って来いよ。』

『ふっ、どっちが兄貴か分からないな?…サンキューな。』

颯太郎はくすぐったい気持ちを隠すかのように店を後にした。

『ふふ、双子なんだから、そんなに変わらないんじゃないの?』

『いや…それでもあいつはやっぱり兄貴だよ。』

幸太郎は誰もいなくなった店のドアの方を見つめ呟いた。
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