ジャスミン
こんな一方的な話は到底納得できるものではないが、母が言うようにいつまでも独身を通す訳にはいかないのも実情だ。

かと言って茉莉以外の女性に心奪われることはこの先ないと断言できる。

ならいっその事、今まで毛嫌いしてきた家柄目当ての女と見合いをする方が良いのかもしれない。


颯太郎はかなり自暴自棄になっていた。

こんな日に仕事をしたところで捗らないのが関の山だ。先ほどまで、茉莉から貰ったネクタイでやる気になっていたが、気力は急速に萎んでいった。


マンションに帰ると無造作に背広を脱ぎ、キッチンからウイスキーと水割り一式をリビングに運ぶ。床に胡座をかいて出来上がったばかりのそれを一気に飲み干す。

『…こんなんじゃ酔えねぇ。』

空になったグラスを見つめながら呟くと、茶色い液体をついでいく。その液体を氷と同化させるようにグラスを揺らしながら考えるのは茉莉のこと。

部下たちからは茉莉は精力的にショーの成功の為に動いていると聞いている。茉莉が夢に一歩ずつ近づいていっていることは心底嬉しいと思うし、応援している。
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