ジャスミン
自分が選んだ道だが、後悔していないと言えば嘘になる。この数ヶ月の間、彼女を想い、何度眠れぬ夜を過ごしたか分からない。その想いは小さくなるどころか日増しに大きくなってきている。

『こんな想い知らなければ良かったな…。』

例え今、茉莉の目の前に現れても彼女を困らすだけ。

颯太郎は自分の整理のつかない気持ちと茉莉のために自分のするべき事の狭間で正常な判断がつかなくなっていた。


ただ一人の女性を愛したいだけなのに…。


すっかり小さくなったグラスの中の氷を指で軽くかき混ぜると、その液体を一気に飲み干した。

そして自問自答を続けた颯太郎は決断を下す。

一人っきりの部屋で彼は大切な人との永遠の別れを決意した…。



翌朝、ビシッと着こなしたシャツにネクタイを結ぶ。グレーのネクタイ…あのネクタイはクローゼットの奥へとしまった。

ピンポーン

『お迎えにあがりました。』

その声に颯太郎は椅子にかけていた背広を羽織ると部屋を後にした。
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