ワケアリ男子の秘密
女、谷田のトキメキ
私はサクラの木へ急いだ。
─────いた。
起こさないようにそっと近づく。
つか脚、長!
制服のブレザーを毛布代わりにして
そいつは眠っていた。
本で隠れて顔が見えない。
迷った末に、
...興味本意で。
本当にそれだけで本を退けた。
この時──私は、
ハッと息を呑んだ。
見つけてしまった。
女とも、男ともつかない中性的な顔立ち。
弓なりの眉
長い睫毛
スッと通った鼻筋
薄い唇はかすかに紅色で....
日本人離れした端正な顔だった。
髪の毛が男の人にしては長めで。
私は本を持ったまま固まってしまった。
こんなにキレイな人が
身近にいるのか...
と、その時、不意に本を持った手を捕まれた。
その人は目を開くと
私の瞳を捉えた。
そして私の手を握ったまま
ゆっくり起き上がると
無表情で言った。
「...何」
目の前にはイケメンのドアップが。
「え!そこで寝てたもんで風邪引かないかなー!なんて!」
ハハハ!と笑って見せたんだけど
近いよ!この人!距離感ってもんが
分からんかーー!
しかしこう見ると顎で切り揃えた
サラサラのおかっぱが似合う。
そのせいでミステリアスで、
セクシーな雰囲気がダダ漏れなんですけど。
あークラクラする!耐えられん!
「あの!手を離してもらっても...」
言うと、彼はパッと手を離した。
はービックリした。
「キミ、何年?」
「俺ですか!?俺は一年C組の
谷田真尋です!!」
するとその人は
一瞬面食らったような顔をして
肩を揺らして笑い始めた。
「アハハ...そこまで聞いてないけど、
丁寧にどうも。俺は三年A組の
朱雀 薫だよ。よろしく、谷田 真尋君。」
穏やかな口調でそう言って
朱雀先輩はニッコリ笑った。
谷田 真尋君。真尋君。真尋君。真尋......
先輩の、私を名を呼ぶ声が脳内にこだまする。
鼓動が速くなる。
ヤバいな、と思った。
だってこんなの危険時マニュアルに
載ってないよ───
「じゃあ、俺もそろそろ行こうかな。谷田君も風邪引かないようにね...心配してくれてありがとう。じゃあね。」
先輩がスクッと立ち上がると私は驚いた。
予想はしてたけど、身長高っけーな!
あれは180あるって!
呆気にとられていると、
朱雀先輩は優雅にブレザーを肩に羽織って
腕を通さずにそのまま行ってしまった。
あ!あいさつ返すの忘れてた!
「朱雀先輩!!お疲れ様です!!」
先輩は振り替えると私に手をひらひらと振って、帰っていった。