その扉の向こう側
「ねえ、携帯教えてよ」


買い出しを終えて学校へと戻るとき、その一言が彼女から放たれた。



二人の間に沈黙が流れ、俺は徐に携帯電話を取り出した。


「俺、あまり使い方分からないから、そっちが適当にしてよ」


そのまま彼女に手渡し、体に纏わりついた妙な緊張感を振り払うように足早に歩いた。


「はい、登録したよ」


俺の手元に携帯が戻り、画面には真波の電話番号とメールアドレスが映っていた。

そのまま何事も無かったかのように歩き出そうとする真波だが、先ほどとは逆に俺は立ち止った。


「だけど、俺、お前とはメールも電話もしないから」


その呟きを真波は聞き取ったようで、すぐさま立ち止まりこちらを振り向いた。

その横を通り過ぎようとすると、彼女は俺の手を取った。

今にも泣き出しそうな表情からは、「なんで?」という言葉が出てきそうだった。


俺は手を振りほどいて、その言葉を出させないように口を開いた。


「だって」


決まっているだろ


「お前のこと、嫌いだから」


そのときの、彼女の悲しい表情は忘れない。
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