胡蝶蘭
俯いて泣いていると後ろから手が伸びてきた。


驚いて目を見開く。


「うん。やっぱ美味しい」


その声は私の好きな声。


振り返ると雅くんが砂にまみれたお弁当のおかずを食べていた。


「雅くん……っ」


「ごめんな。遅くなって」


首を横に振る。


雅くんは優しく笑うと私の頭に手を置いた。


「弁当落ちちゃったんだ」


「うん……」


「お腹すいたでしょ?」


「うん……」


「帰ろっか」


「うん……、え?」


「帰って俺と、もっと美味しいもの食べよう?」


顔を覗き込まれて顔が赤くなる。


ゆっくり頷くと雅くんに頭を撫でられた。


「鞄は持ってるな。俺、ちょっと持ってくるから」


「あ……、雅くん……」


「杏里」


おでこがコツンと合わさる。


間近に雅くんの綺麗な顔。


のぼせそう……。


「動くの辛いだろ?」


「うん……」


「ここで待ってて。すぐ戻って来るから」


そう言うと雅くんは走って行った。


なんで私、涙目なんだろう。


凄くドキドキして、緊張した……。


人気者の雅くんと私が釣り合うわけない。


そんなの分かってる。


それなのに雅くんが好きすぎて頭が変になりそうだ。


「雅くん……」


そう呟いて目を閉じる。


すると


「あっれ?幼なじみちゃん?」


前から声が聞こえた。


私をそうやって呼ぶのは一人だけ。


「芦屋くん……?」

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