胡蝶蘭
「あ……」


小さく声を漏らすと芦屋くんに抱き締められた。


「もうちょっと、ここにいて」


「芦屋くん……っ」


「杏里ちゃんは優しいから、きっと杏里ちゃんを傷付けた人達を責めたりしないよね。でもそれじゃ杏里ちゃんが可哀想だよ。杏里ちゃんは強くなくていい。俺が守ってあげるから」


どうしよう。


芦屋くんの言葉一つ一つにドキドキしてしまう。


芦屋くんの匂いに頭がクラクラする。


頭がぼーっとしてきた。


その時、美術室の扉が開いた。


ハッとして扉を見るとそこには私の鞄と自分の鞄を持った雅くんが立っていた。


無機質な目で私達を見つめる雅くん。


近付いてくると雅くんは私の腕を掴んで芦屋くんから引き離した。


その無機質な目は芦屋くんに向けられている。


芦屋くんも雅くんを少し睨むようにして見ていた。


「やっぱりそうだったんだな。零士」


「そうだよ。雅じゃ、杏里ちゃんは泣くだけだ」


「言ってろ。ほら、行くぞ。杏里」


手を引っ張られてよろける。


芦屋くんは寂しそうに笑いながら手を振ってくれていた。


そんな芦屋くんに私は口を開いていた。


「あ、ありがとう!!芦屋くん!!」


「え?」


「私の話し聞いてくれて!!嬉しかった!!」


「杏里ちゃん……」


「芦屋くんと私の秘密、守るからね!!」


そう言うと芦屋くんが赤くなった。


笑いかけると同時に雅くんに美術室から連れ出された。


なんだか不機嫌な雅くん。


下駄箱まで来ると雅くんに手を壁に押し付けられた。


目を見開いて雅くんを見つめる。


雅くんは凄く不機嫌そうに私を見つめると口を開いた。


「なんで待ってなかった?」


「芦屋くんに誘われて……」


「断われよ」


「し、失礼、だし……」


「んな事関係あるか。俺が『待ってろ』っつったら待ってろよ」


「ごめんなさい……」


雅くんを怒らせた自分が情けなくて涙が出てくる。


雅くんはため息をつくと手を握った。

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