男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
1st Program *“淑女(レディ)”の救出
1st Data『“淑女(レディ)”の救出計画』 ◆昴 side◆
「…なぁ。樹、聞いたか?部長秘書の連中、また“淑女”を病院送りにしたらしいぜ。…もちろん、“ 柚奈姉さん”は除いてだけどな。」
「ちょっと観月くん、やめてその話は!思い出すだけでまたイライラしてきちゃうから!!」
「あぁ、“柚奈姉さん”から聞いたよ。アレだろ?『“淑女”が、ホワイトデーに常務から食事に誘われたんで行ったら…翌日には社内中で噂されてて、しばらく無かった部長秘書の連中から嫌がらせがまた始まった。』っていう…。」
「そうそう、それそれ!」
「まぁ、誰かが見たんだろうけどさ…。話広まんの速すぎて怖いって。…うわっ!ちょっと!“姉さん”、落ち着いて――。」
3月18日、午前8時――。
会社に着き、我が〔株式会社 Platina Computer〕の〔開発営業部〕のドアを開けると、フロアはすでに騒がしい。
鈴原が出勤しているのは予想していたが、観月と桜葉も来ていて少し驚いた。
しかし考えてみれば、先週金曜は急きょ営業にも出向いていたし…おそらく溜まっている事務処理を終わらせるために早く来たのだろう。
騒がしかった理由は、どうやら常務秘書である姫野雅のことを話題にしているからだと状況を察した。
姫野さんは大変優秀な秘書だ。
常務のスケジュール管理はもちろんのこと、秘書としての心配りや立ち振る舞いも申し分ないことから…会社の中でも外でも“仕事がデキる女”と期待されている人間だ。
そんな彼女の容姿を表す言葉は【美人】。
だから、男共が放っておくわけもなくアプローチされるのは日常茶飯事らしい。
しかし、当の本人は“男嫌いの淑女”と揶揄されるほど″大の男嫌い″で、男からのアプローチを迷惑がっていると鳴海部長からよく聞く。
過去には「妻子持ちの社員が口説いているうちに不倫になりそうなほど姫野さんに本気になってしまった。」という話もあった。
…それにしても。鈴原が居る前でちょっと無神経すぎやしないか?
避けるだろ、その話題は…普通。
「鈴原と姫野さんの仲が良い」というのは、うちの会社では周知の事実なんだから。
嫌な話を蒸し返される鈴原の身にもなってやれ。
それに、せっかく早く来たのなら手を動かせ。
今日から半月間は、通常業務と決算関連の業務、両方を捌いていくんだから。
「おはようございます、先輩たち何の話で盛り上がってるんですか?」
津田も来たし、一度締めておくか。
研修員には"病院送り"なんて【重い話】、あまり聞かせたくないしな。
「観月、桜葉。2人とも少し落ち着け。喋るなとは言わないが、いい加減にそれぞれの仕事に取り掛かれ。」
「そうですね、課長。」
観月と桜葉は、ようやく仕事する気になったらしい。
「それから、鈴原。昨日、部長から『明日は8時には出勤するから、出迎えよろしくね。』って言われてなかったか?秘書が自分の上司の動きを把握しきれてないなんて本末転倒だぞ?」
「きゃぁぁ!いっけな~い…。喋ってたら、つい…。本条課長、ありがとうございます!では、鳴海部長のお迎えに――。」
ガチャ――。
「鈴原さん、みんな、おはよう。鈴原さんの【お出迎え】が無くて寂しかったなー。何かあった?システムトラブルの連絡とか…。」
「…っ!鳴海部長!申し訳ございません!…いえ、システムトラブルなどは何も。観月くんたちと話し込んでいたらお時間が過ぎておりまして…お迎えに上がろうと、ドアまで向かったら…。」
「…僕が入ってきたってわけだ。…あはは。」
いや。「あはは。」じゃないでしょう、部長。
「… クスクスッ、仕方ない。鈴原さんの可愛いリアクションに免じて許してあげるよ。…さて。それじゃあ、とりあえず今日のスケジュール流して?」
「はい。本日は、13時より[上層部会議]。その後、16時より開発との[新商品開発会議]が入っております。」
スケジュールを読み上げた鈴原に、部長は「分かった。」と頷いて返事をし、話題を切り替えた。
「…で?僕が居ない間、何の話で盛り上がってたの?」
「“淑女”の話ですよ、部長。」
「あ~ぁ。姫野さんね。彼女、今日から復帰してるよ。」
「よかった~。…ところで、部長。姫ちゃ…じゃなかった。姫野さんの件、本当に何とかならないんでしょうか?」
「ホントですよ。このままじゃ…彼女、会社辞めちゃいますよ。」
鈴原と桜葉の声は切実だ。
気持ちは分かったが、津田も聞いてんだよ。
いい加減この話やめないとマズイだろ。
誰か気づけよ…。
「〔営業第1課〕に来たら良いのに…。…けど、確か。“淑女”って…″大の男嫌い″って話じゃなかったでしたっけ?そんな人が、男とメシなんか行きますかね?絶対に常務が追いかけ回してるだけだと思うんですけど…。それで嫌がらせするって何か違いません?」
俺もお前と同意見だよ…観月。
同意はしてやるが、仕事しろって。
何のために早く出社したんだ、お前ら。
まぁ…な。″大の男嫌い″と噂の姫野さんが、軽々しく男と食事するとは思えない。
上司に誘われ、【付き合い】として【仕事】だと思って割り切って行ったんだろう。
俺はデータ入力をする手は止めずに黙って話を聞きながら、そんな風に考えていた。すると、部長が状況を整理しながら詳細を教えてくれる。
「うん、たぶん兄さんが追いかけ回してるだけだと思う。それで部長秘書たちから嫌がらせを受けるなんて…どうかと思うよ。全く、姫野さんを巻き込まないでほしいよね…。“あの人”の女癖の悪さには、社長である父さんや副社長である叔父さんも困まってるよ。彼女に対する嫌がらせの状況も変わらないし、後任も見つかったみたいだから《トップ3》もようやく動くようだけどね…。」
やっと動くか、上層部も…。
「ちょっと観月くん、やめてその話は!思い出すだけでまたイライラしてきちゃうから!!」
「あぁ、“柚奈姉さん”から聞いたよ。アレだろ?『“淑女”が、ホワイトデーに常務から食事に誘われたんで行ったら…翌日には社内中で噂されてて、しばらく無かった部長秘書の連中から嫌がらせがまた始まった。』っていう…。」
「そうそう、それそれ!」
「まぁ、誰かが見たんだろうけどさ…。話広まんの速すぎて怖いって。…うわっ!ちょっと!“姉さん”、落ち着いて――。」
3月18日、午前8時――。
会社に着き、我が〔株式会社 Platina Computer〕の〔開発営業部〕のドアを開けると、フロアはすでに騒がしい。
鈴原が出勤しているのは予想していたが、観月と桜葉も来ていて少し驚いた。
しかし考えてみれば、先週金曜は急きょ営業にも出向いていたし…おそらく溜まっている事務処理を終わらせるために早く来たのだろう。
騒がしかった理由は、どうやら常務秘書である姫野雅のことを話題にしているからだと状況を察した。
姫野さんは大変優秀な秘書だ。
常務のスケジュール管理はもちろんのこと、秘書としての心配りや立ち振る舞いも申し分ないことから…会社の中でも外でも“仕事がデキる女”と期待されている人間だ。
そんな彼女の容姿を表す言葉は【美人】。
だから、男共が放っておくわけもなくアプローチされるのは日常茶飯事らしい。
しかし、当の本人は“男嫌いの淑女”と揶揄されるほど″大の男嫌い″で、男からのアプローチを迷惑がっていると鳴海部長からよく聞く。
過去には「妻子持ちの社員が口説いているうちに不倫になりそうなほど姫野さんに本気になってしまった。」という話もあった。
…それにしても。鈴原が居る前でちょっと無神経すぎやしないか?
避けるだろ、その話題は…普通。
「鈴原と姫野さんの仲が良い」というのは、うちの会社では周知の事実なんだから。
嫌な話を蒸し返される鈴原の身にもなってやれ。
それに、せっかく早く来たのなら手を動かせ。
今日から半月間は、通常業務と決算関連の業務、両方を捌いていくんだから。
「おはようございます、先輩たち何の話で盛り上がってるんですか?」
津田も来たし、一度締めておくか。
研修員には"病院送り"なんて【重い話】、あまり聞かせたくないしな。
「観月、桜葉。2人とも少し落ち着け。喋るなとは言わないが、いい加減にそれぞれの仕事に取り掛かれ。」
「そうですね、課長。」
観月と桜葉は、ようやく仕事する気になったらしい。
「それから、鈴原。昨日、部長から『明日は8時には出勤するから、出迎えよろしくね。』って言われてなかったか?秘書が自分の上司の動きを把握しきれてないなんて本末転倒だぞ?」
「きゃぁぁ!いっけな~い…。喋ってたら、つい…。本条課長、ありがとうございます!では、鳴海部長のお迎えに――。」
ガチャ――。
「鈴原さん、みんな、おはよう。鈴原さんの【お出迎え】が無くて寂しかったなー。何かあった?システムトラブルの連絡とか…。」
「…っ!鳴海部長!申し訳ございません!…いえ、システムトラブルなどは何も。観月くんたちと話し込んでいたらお時間が過ぎておりまして…お迎えに上がろうと、ドアまで向かったら…。」
「…僕が入ってきたってわけだ。…あはは。」
いや。「あはは。」じゃないでしょう、部長。
「… クスクスッ、仕方ない。鈴原さんの可愛いリアクションに免じて許してあげるよ。…さて。それじゃあ、とりあえず今日のスケジュール流して?」
「はい。本日は、13時より[上層部会議]。その後、16時より開発との[新商品開発会議]が入っております。」
スケジュールを読み上げた鈴原に、部長は「分かった。」と頷いて返事をし、話題を切り替えた。
「…で?僕が居ない間、何の話で盛り上がってたの?」
「“淑女”の話ですよ、部長。」
「あ~ぁ。姫野さんね。彼女、今日から復帰してるよ。」
「よかった~。…ところで、部長。姫ちゃ…じゃなかった。姫野さんの件、本当に何とかならないんでしょうか?」
「ホントですよ。このままじゃ…彼女、会社辞めちゃいますよ。」
鈴原と桜葉の声は切実だ。
気持ちは分かったが、津田も聞いてんだよ。
いい加減この話やめないとマズイだろ。
誰か気づけよ…。
「〔営業第1課〕に来たら良いのに…。…けど、確か。“淑女”って…″大の男嫌い″って話じゃなかったでしたっけ?そんな人が、男とメシなんか行きますかね?絶対に常務が追いかけ回してるだけだと思うんですけど…。それで嫌がらせするって何か違いません?」
俺もお前と同意見だよ…観月。
同意はしてやるが、仕事しろって。
何のために早く出社したんだ、お前ら。
まぁ…な。″大の男嫌い″と噂の姫野さんが、軽々しく男と食事するとは思えない。
上司に誘われ、【付き合い】として【仕事】だと思って割り切って行ったんだろう。
俺はデータ入力をする手は止めずに黙って話を聞きながら、そんな風に考えていた。すると、部長が状況を整理しながら詳細を教えてくれる。
「うん、たぶん兄さんが追いかけ回してるだけだと思う。それで部長秘書たちから嫌がらせを受けるなんて…どうかと思うよ。全く、姫野さんを巻き込まないでほしいよね…。“あの人”の女癖の悪さには、社長である父さんや副社長である叔父さんも困まってるよ。彼女に対する嫌がらせの状況も変わらないし、後任も見つかったみたいだから《トップ3》もようやく動くようだけどね…。」
やっと動くか、上層部も…。
< 1 / 126 >