男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
「本条課長。すみません、"これ"を“姫野さん”に…。」
「…ん?…あぁ。了解、渡そう。」
「姫野さん、観月からだ。それから。今はあなたに経験として、少しでも聞き取り作業をやってもらう形を取ったが…俺からは"これ"を情報提供しよう。」
そう言って課長が私に渡してきた物は、【観月くんからのメモ】と…【課長のプライベート用のスマホ】だった。
メモには、"Technical informationと書かれた…さらに下に【STOP】と書かれているところがあって、それに続くように10文字ほど英数字が並んでいると思います。それが【STOPコード】です。通話中の看護師さんからそれを聞き取って下さい。"と書かれていた。
私は観月くんに"ありがとう!"と…笑顔とジェスチャーの両方で伝えて、彼の【笑顔の返事】を確認した後…メモの指示通りに佐久間さんに聞いてみる。
そして佐久間さんの話に耳を傾けつつも、課長のスマホに視線をサッと走らせると…グレースクリーンの写真が映し出されていた。
やだ、なんだー。
グレースクリーンの画像、検索すれば出てくるんじゃない。
もう、最初から教えて下さいよ…これぐらい。課長のイジワル。
"ちょっと拗ねてます"という意味で課長をジッか見つめれば彼と目が合い、少し困った顔で見つめ返されて…「ごめん、悪かった。」と口パクで謝られる。
…あっ!でも――。
佐久間さんが断片的に伝えてくれた文章と、私が彼との会話から予想した文章と完全に一致してる。翻訳合ってた、良かった。
「課長。工藤さん、いろいろあって…社内で捕まってたみたいで…今から向かうとのことです。」
桜葉くんの声に、課長は「10分ってところか…分かった。」と反応していた。
「{姫野さん、エラーコードありました。おそらく、これかと…"0y020x078E"。それと、残り2台のうち1台も同じコードで…もう1台のコードは"GyG20x098F"です。}」
「佐久間さん、ありがとうございます。まさに…それです。これでエラーの原因が判明しましたので今から対処に向かえます。」
私が佐久間さんとそんなやり取りをしている後ろでは、課長が次の指示を飛ばしている。
「メモリーとHDDの不具合によるグレースクリーンだ。ウィルス感染ではないから至急ではないが、業務をあまり滞らせるわけにもいかない。内科のPCから始めよう。」
「了解!」
「{おぉ!さすが“本条ヤングjr.”…いつもながら、スピーディですね!}」
「お褒めいただき光栄です、“佐久間様”。姫野との通話中にもかかわらず騒がしくして申し訳ございませんでした。業務の指示の最中なので私は失礼しますが、姫野とは一区切りつくまで通話していただければと思います。……では、失礼致します。」
「{はい、失礼します。}」
課長の一言をきっかけに、私も佐久間さんとの通話を「それでは後ほどお伺いしますので、いったん失礼致します。」と会話を締めて、受話器を本体に丁寧に戻した。
「…あ。姫野さん、終わったな。じゃあ、俺は〔副院長室〕の【マスターPC】のメンテを始めておくとして…工藤が来たら交代してそっちに合流するよ。それじゃ――。」
隣の〔副院長室〕に向かおうとする本条課長を、桜葉くんが慌てて止める。
「あっ。課長、待って下さい!【incomily】のアプリ…忘れてません?姫野さんと護の社用スマホに入れなきゃいけないんじゃ…?」
【incomily】……それで、「イヤホン所持必須!」って言ったのね。
【incomily】は、自社開発の【相互通信・通話ソフト】である。その名の通り、インカム…マイク付きヘッドセットを用いて複数での通信や通話をするのに特化している商品だ。
ノイズキャンセラー機能や"音声が途切れる"ことなど…起こりにくい仕様で設計られていて、チーム行動の中で通信する頻度が高い〔開発課〕や〔営業課〕…そして“Team Platina”では特に重宝されている代物だ。
「あっ、そうだ!危ないところだった。桜葉、サンキュ。それにしても…相変わらず『さすが姫野さん。』としか言いようがないな。もうパスコードの解除をしてくれてる…ありがとう。」
そう言いながら、課長は私と津田くんの社用スマホに【incomily】のアプリをインストールした。
「今"ルーム"を作った、テストする。社用スマホに招待送ったから、4人とも、"ルーム"に入室し…イヤホン装着。」
「はい!」
そして――。
「{こちら本条。姫野さん、聞こえるか?}」
「{はい、こちら姫野。課長、よく聞こえます。}」
「{こちら本条。津田、聞こえるか?}」
「{はい、こちら津田。課長、感度良好です。}」
私と津田くんと…本条課長の通話を聞いて、観月くんと桜葉くんも【OKサイン】を出している。
どうやら、問題なく…5人で会話が共有できているみたい…。
「よし、問題は無いだろう。じゃあ、あとはさっきの打ち合わせ通りで。姫野さん、津田。詳細設定や使い方については、ひとまず観月や桜葉に聞いて。それから、【incomily】での通話が完全に終了するまでは…アプリは起動状態もしくはスリープ状態にしておくこと。その癖を…今日からつけろ。タスク閉じるなよ。」
「承知しました。いろいろ聞いておきます。」
「それから。PCメンテや【スパイ行為】の対応時に関してだが…。切迫詰まった状況下では返答は短い方が助かるから…『了解。』など、敬語でない場面も多々ある。だが、俺がそうするように伝えているんだ。だから"失礼じゃないだろうか?"というのは、またちょっと違う話だ。気にしなくていい。」
「承知しました。そうですよね、緊急時には指示命令系統がしっかりしていないと…。覚えておきます。」
私がしっかりと返事すると、課長は口角を上げた。
「じゃあ。観月、桜葉。しばらく姫野さんと津田を頼む。」
「お任せ下さい。」
「院長、“本条ドクター”…。“うちの姫野”をよろしく頼みます…それと。部下の工藤が乗ってくる車はうちの社用車で、ナンバーがこれになります。」
「分かりました、〔守衛室〕に連絡しておきます。えぇ、姫野さんのこともご心配なく。あなたと“彼女たち”が合流するまで…私か“忍先生”が同行しますから。」
「『じゃあ後でな。』と、言いたいところだが…。姫野さん、不安か?」
「はい…。これから内科病棟でPCのメンテするんですよね。でも、皆川さんの"あの態度"。私でも務まるのでしょうか…。先ほどの電話対応もあれで良かったのかどうか…。」
「桜葉、津田。先に内科病棟へ。」
「承知しました。じゃあ、“シュウ”…また後でな。」
「おう!」
「“姫野さん”。課長に聞いてもらってスッキリした状態で"良い仕事"しましょ。俺はあなたの電話対応すごいなと思いましたよ。」
「桜葉くん…。」
「先に行って待ってますね!…行こう、護。」
「はい。」
そう言って、桜葉くんと津田くんは一足先に内科病棟へ向かってくれた。
「…ん?…あぁ。了解、渡そう。」
「姫野さん、観月からだ。それから。今はあなたに経験として、少しでも聞き取り作業をやってもらう形を取ったが…俺からは"これ"を情報提供しよう。」
そう言って課長が私に渡してきた物は、【観月くんからのメモ】と…【課長のプライベート用のスマホ】だった。
メモには、"Technical informationと書かれた…さらに下に【STOP】と書かれているところがあって、それに続くように10文字ほど英数字が並んでいると思います。それが【STOPコード】です。通話中の看護師さんからそれを聞き取って下さい。"と書かれていた。
私は観月くんに"ありがとう!"と…笑顔とジェスチャーの両方で伝えて、彼の【笑顔の返事】を確認した後…メモの指示通りに佐久間さんに聞いてみる。
そして佐久間さんの話に耳を傾けつつも、課長のスマホに視線をサッと走らせると…グレースクリーンの写真が映し出されていた。
やだ、なんだー。
グレースクリーンの画像、検索すれば出てくるんじゃない。
もう、最初から教えて下さいよ…これぐらい。課長のイジワル。
"ちょっと拗ねてます"という意味で課長をジッか見つめれば彼と目が合い、少し困った顔で見つめ返されて…「ごめん、悪かった。」と口パクで謝られる。
…あっ!でも――。
佐久間さんが断片的に伝えてくれた文章と、私が彼との会話から予想した文章と完全に一致してる。翻訳合ってた、良かった。
「課長。工藤さん、いろいろあって…社内で捕まってたみたいで…今から向かうとのことです。」
桜葉くんの声に、課長は「10分ってところか…分かった。」と反応していた。
「{姫野さん、エラーコードありました。おそらく、これかと…"0y020x078E"。それと、残り2台のうち1台も同じコードで…もう1台のコードは"GyG20x098F"です。}」
「佐久間さん、ありがとうございます。まさに…それです。これでエラーの原因が判明しましたので今から対処に向かえます。」
私が佐久間さんとそんなやり取りをしている後ろでは、課長が次の指示を飛ばしている。
「メモリーとHDDの不具合によるグレースクリーンだ。ウィルス感染ではないから至急ではないが、業務をあまり滞らせるわけにもいかない。内科のPCから始めよう。」
「了解!」
「{おぉ!さすが“本条ヤングjr.”…いつもながら、スピーディですね!}」
「お褒めいただき光栄です、“佐久間様”。姫野との通話中にもかかわらず騒がしくして申し訳ございませんでした。業務の指示の最中なので私は失礼しますが、姫野とは一区切りつくまで通話していただければと思います。……では、失礼致します。」
「{はい、失礼します。}」
課長の一言をきっかけに、私も佐久間さんとの通話を「それでは後ほどお伺いしますので、いったん失礼致します。」と会話を締めて、受話器を本体に丁寧に戻した。
「…あ。姫野さん、終わったな。じゃあ、俺は〔副院長室〕の【マスターPC】のメンテを始めておくとして…工藤が来たら交代してそっちに合流するよ。それじゃ――。」
隣の〔副院長室〕に向かおうとする本条課長を、桜葉くんが慌てて止める。
「あっ。課長、待って下さい!【incomily】のアプリ…忘れてません?姫野さんと護の社用スマホに入れなきゃいけないんじゃ…?」
【incomily】……それで、「イヤホン所持必須!」って言ったのね。
【incomily】は、自社開発の【相互通信・通話ソフト】である。その名の通り、インカム…マイク付きヘッドセットを用いて複数での通信や通話をするのに特化している商品だ。
ノイズキャンセラー機能や"音声が途切れる"ことなど…起こりにくい仕様で設計られていて、チーム行動の中で通信する頻度が高い〔開発課〕や〔営業課〕…そして“Team Platina”では特に重宝されている代物だ。
「あっ、そうだ!危ないところだった。桜葉、サンキュ。それにしても…相変わらず『さすが姫野さん。』としか言いようがないな。もうパスコードの解除をしてくれてる…ありがとう。」
そう言いながら、課長は私と津田くんの社用スマホに【incomily】のアプリをインストールした。
「今"ルーム"を作った、テストする。社用スマホに招待送ったから、4人とも、"ルーム"に入室し…イヤホン装着。」
「はい!」
そして――。
「{こちら本条。姫野さん、聞こえるか?}」
「{はい、こちら姫野。課長、よく聞こえます。}」
「{こちら本条。津田、聞こえるか?}」
「{はい、こちら津田。課長、感度良好です。}」
私と津田くんと…本条課長の通話を聞いて、観月くんと桜葉くんも【OKサイン】を出している。
どうやら、問題なく…5人で会話が共有できているみたい…。
「よし、問題は無いだろう。じゃあ、あとはさっきの打ち合わせ通りで。姫野さん、津田。詳細設定や使い方については、ひとまず観月や桜葉に聞いて。それから、【incomily】での通話が完全に終了するまでは…アプリは起動状態もしくはスリープ状態にしておくこと。その癖を…今日からつけろ。タスク閉じるなよ。」
「承知しました。いろいろ聞いておきます。」
「それから。PCメンテや【スパイ行為】の対応時に関してだが…。切迫詰まった状況下では返答は短い方が助かるから…『了解。』など、敬語でない場面も多々ある。だが、俺がそうするように伝えているんだ。だから"失礼じゃないだろうか?"というのは、またちょっと違う話だ。気にしなくていい。」
「承知しました。そうですよね、緊急時には指示命令系統がしっかりしていないと…。覚えておきます。」
私がしっかりと返事すると、課長は口角を上げた。
「じゃあ。観月、桜葉。しばらく姫野さんと津田を頼む。」
「お任せ下さい。」
「院長、“本条ドクター”…。“うちの姫野”をよろしく頼みます…それと。部下の工藤が乗ってくる車はうちの社用車で、ナンバーがこれになります。」
「分かりました、〔守衛室〕に連絡しておきます。えぇ、姫野さんのこともご心配なく。あなたと“彼女たち”が合流するまで…私か“忍先生”が同行しますから。」
「『じゃあ後でな。』と、言いたいところだが…。姫野さん、不安か?」
「はい…。これから内科病棟でPCのメンテするんですよね。でも、皆川さんの"あの態度"。私でも務まるのでしょうか…。先ほどの電話対応もあれで良かったのかどうか…。」
「桜葉、津田。先に内科病棟へ。」
「承知しました。じゃあ、“シュウ”…また後でな。」
「おう!」
「“姫野さん”。課長に聞いてもらってスッキリした状態で"良い仕事"しましょ。俺はあなたの電話対応すごいなと思いましたよ。」
「桜葉くん…。」
「先に行って待ってますね!…行こう、護。」
「はい。」
そう言って、桜葉くんと津田くんは一足先に内科病棟へ向かってくれた。