男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
「こちら桜葉。…もちろんです、本条課長。……“姫野さん”。これ以外だと【『ハードが破損している可能性があります。』ってエラーメッセージが出てるPC】と【動作が遅いPC】と【電源がつかないPC】があります。どれか対応できますか?」
「えっと…。【『ハード破損』のメッセージが出てるPC】は、<再起動を掛けつつ、PCのユーザーにもう少し詳しい状況を尋ねる>。それと同時に、<再起動後も状況の改善がされない場合はエラーチェックを掛ける>。【動作が遅いPC】は、<エラーチェックやHDDのクリーンアップまたは最適化を掛ける>。【電源がつかないPC】は、<他のPCの電源プラグやアダプターでもつかないか試す>。…これらの方法を試みようと思いますが、手順的に違うところや抜けている部分はありますか?」
エラーチェックとは…OSのエラーを自動でチェックし、修復してくれる機能のことで全てのPCに標準搭載されているもの。クリーンアップは、いわばPCの【お掃除機能】だ。
PCというものは、私たちが見えていない部分で様々な【情報】を保存する。各サイトのIDやパスワード、閲覧履歴…本当にたくさんの【情報】を保存するのだ。
そして、それらにアクセスしたという足跡のようなものまで勝手に保存されているのが通例なのだけれど…これらは時が経てば【不要なデータ】となっていくものだ。
それを捨てて整理をすることが必要で…その整理をしてくれるのが、クリーンアップの機能というわけ。
また、このクリーンアップやエラーチェックと一緒に行うと良いのが、"最適化"…デフラグだ。これは、PCのデータを【整頓をしてくれる機能】と言える。
不要なものを処分してスッキリしたら、今度は残ったものをジャンル毎に分けて整理整頓しておくと…次に探したいものがある時は見つけやすいもの…。
これが"最適化"という機能の役割である。
感覚的には…本棚の整理整頓をする時のような感じ。
"「PCのパフォーマンスが全然違ってくる。」と言われるほど…これらの作業を定期的にやっておくことは意味があるのだ"と…〔営業〕に来てから、改めて何人かに聞かされた。
ちなみに、クリーンアップや"最適化"の機能もすべてのPCに搭載されている機能になっている。
「無いですね、完璧です。どれの対応でもやってもらえそうなので【エラーメッセージが出てるPC】からメンテお願いできますか?」
私と桜葉くんがそんな会話をしているのを、皆川さんや佐久間さん…そして池内看護師長さんを含めて8人の看護師さんたちが傍観している。
「了解!それなら私でも対応可能です。…それから、必要なら3台同時進行でお引き受けしましょうか?」
私がカッコつけたわけでもなく、ナチュラルな感じでそう言うと…看護師さんたちのヒソヒソ声が聞こえてきた。
「出しゃばってんじゃないの?」、「3台同時になんてできんの?」――。
……まぁ、【PCメンテナンスの現場】が分からない人からすると、この反応よねー。
しかも、私…女だし。
なんか悔しいんだけど……。 やらせてくれないかな……。
「お願いできれば助かりますが、大丈夫ですか?…無理してません?」
「“姫野さん”、やってみて下さい。」
「“シュウ”!?」
「同時に不具合が起った場合の想定もイメージされてましたよね?『優先順位を考えて…でもユーザーに状況確認する時は、話を聞くが7割…同時進行で行う関連作業の手を動かすのが3割で…。』って。そこまで頭で整理ができているなら、俺はできると思います。……【現場】での実施ですから、『習うより慣れろ』です。……本条課長、良いですか?」
「{あぁ、どんどん実践してもらったら良い。…観月、よく任せたな。良い判断だ。……姫野さんもさすがだ。よく『やります!』と申し出てくれた。改めて言うこともないが…今、あなたがやろうとしているトラブルの対処は日常的に起こる類いのものだ。常務のPCのメンテをしてくれていた姫野さんならすでに対処の経験をしている事例だろう。問題なくこなせるはずだ。ただ、過信はするな。できない時には『NO』や『SOS』を言えることも大事だ。}」
「こちら姫野。…はい。“観月さん”、本条課長。私を信頼して下さってありがとうございます!…作業に入ります。」
そして、私は3台それぞれのメンテナンス作業を同時に進めていった――。
結果は私の見立て通り、「HDD破損」のエラーメッセージも"エラーチェック"や再起動を掛けたら表示されなくなり…電源がつかないPCはプラグの劣化が原因と判明したので、会社から持ってきたものを貸し出すことになった。
新品のものが用意でき次第、後日改めて訪問する流れだ。
私がちょこまかと動いている様子を見て…「ほう、大したものだ。」や「本当ですね。先ほどの電話対応も見事でしたし、見習わなくては…。」という院長先生や佐久間さんの声――。
「女性でパソコンのメンテナンスができる人なんてすごいわね、感心するわ!」という池内師長さんや尾形主任さんの声――。
ただ何も言わず、私を睨みつけてくるだけの…【内科病棟の古株】である寿さん、皆川さん…神田さんの【敵意剥き出しの視線】――。
いろんな"もの"が見えて、聞こえて…落ち着かなくてソワソワした。
嫌になりそうだけど……仕事中よ、集中!負けるな、私!!
自分で気持ちを奮い立たせて、私は作業に集中するよう…意識を戻した。
そんな状況の中でも、背中に感じる【院長先生の手の温もり】と「落ち着いて業務を進めて。」という言葉は…信じられた。
もうすぐグレースクリーンが出ているPCのバックアップが終わる頃かしら。
これが終わっても、新しいHDDと入れ替えたりするんだっけ…。
PCの【中】なんて初めて見るわ…。
私が見ても分からないかもしれないけど、見ておいて損はないはず…。その時になったら傍で見せてもらおう。
そんな風に次の行動を考えていると、ナースステーションの電話が鳴り…尾形主任が一瞬で取った。
「はい。内科病棟、尾形です。」
「{総合受付、香坂です。〔Platina Computer〕の“工藤様”がいらっしゃいました。お荷物が多数あるとのことで、男性にお手伝いいただきたいということです。}」
「〔プラチナ〕さんの…“工藤様”で、男手が必要ね。…了解、姫野さんたちに伝えるわ。」
「樹、護。向かって。」
さすが観月くん。
「尾形主任さん。『桜葉と津田が向かいました。』と香坂さんにお伝え下さい。」
尾形主任から"ありがとう"サインがきた。
「ナイスアシスト!“姫野さん”。」
「いえいえ、“観月さん”。」
「{こちら本条、工藤が来たようだな…。}」
「こちら観月。はい、そうですね。どうしますか?もう…直で〔副院長室〕向かってもらいますか?それから、グレースクリーンPCのバックアップ…3台とも、9割完了しています。」
「{「こちら本条。いや、ひとまずは内科で合流しよう。先ほどの【業務妨害】と【姫野さんに対する暴言】の対処もあるしな。工藤も含めて話を聞いておいてもらう必要がある。だからそれが終わり次第…〔副院長室〕を任せることにする。こっちも【マスターPC】のメンテ、あと数秒で第一段階が終わるってところでキリが良い。…バックアップの状況、了解。}」
「{こちら工藤。桜葉より"ルームID"を聞き、入りました。話を聞く限りトラブルがあったようですね。了解。話を聞いた後、課長と交代し…俺が【マスターPC】のメンテを引き受けます。}」
"さすが工藤さんね、慣れてるわ。"なんて感心していると、「1分、複数通信切るぞ。」なんて課長の声が聞こえてきて――。
それと同時に、【incomily】での"今の課長の位置づけ"…[Host]を示す[H]のボタンと、私の"今の番号"である[3]が押されて驚き…慌ててしまう。
課長との個別通信!
「は、はい!こちら姫野。」
「{姫野さん。同時進行でのメンテありがとう。ずっと会話を聞いていたが、業務捌き見事だった。今から合流するから。…作業中、心細くはなかったか?}」
本条課長の声色がいつもに増して優しく…私を驚くほど安心させてくれる。
あぁ、心配して下さったんですね……。
「いえ、大したことは…。心細さは…少し。でも、院長先生が様子を見ながら『落ち着いて業務を進めて。』と傍で声を掛けて下さってましたから。」
「{そうか。分かった、安心したよ。じゃあ後でな。}」
「はい、お待ちしてます。」と私が言って会話にキリがついたところで、【incomily】が再び複数通信モードに切り替わった。
間もなくして、課長は忍先生とともに内科病棟に姿を見せた。
私はその姿を見て安心したような……。
先ほどの"トラブル"の件がこの後話されるかと思うと、不安になるような……。
そんな複雑な気持ちを抱えていた――。
「えっと…。【『ハード破損』のメッセージが出てるPC】は、<再起動を掛けつつ、PCのユーザーにもう少し詳しい状況を尋ねる>。それと同時に、<再起動後も状況の改善がされない場合はエラーチェックを掛ける>。【動作が遅いPC】は、<エラーチェックやHDDのクリーンアップまたは最適化を掛ける>。【電源がつかないPC】は、<他のPCの電源プラグやアダプターでもつかないか試す>。…これらの方法を試みようと思いますが、手順的に違うところや抜けている部分はありますか?」
エラーチェックとは…OSのエラーを自動でチェックし、修復してくれる機能のことで全てのPCに標準搭載されているもの。クリーンアップは、いわばPCの【お掃除機能】だ。
PCというものは、私たちが見えていない部分で様々な【情報】を保存する。各サイトのIDやパスワード、閲覧履歴…本当にたくさんの【情報】を保存するのだ。
そして、それらにアクセスしたという足跡のようなものまで勝手に保存されているのが通例なのだけれど…これらは時が経てば【不要なデータ】となっていくものだ。
それを捨てて整理をすることが必要で…その整理をしてくれるのが、クリーンアップの機能というわけ。
また、このクリーンアップやエラーチェックと一緒に行うと良いのが、"最適化"…デフラグだ。これは、PCのデータを【整頓をしてくれる機能】と言える。
不要なものを処分してスッキリしたら、今度は残ったものをジャンル毎に分けて整理整頓しておくと…次に探したいものがある時は見つけやすいもの…。
これが"最適化"という機能の役割である。
感覚的には…本棚の整理整頓をする時のような感じ。
"「PCのパフォーマンスが全然違ってくる。」と言われるほど…これらの作業を定期的にやっておくことは意味があるのだ"と…〔営業〕に来てから、改めて何人かに聞かされた。
ちなみに、クリーンアップや"最適化"の機能もすべてのPCに搭載されている機能になっている。
「無いですね、完璧です。どれの対応でもやってもらえそうなので【エラーメッセージが出てるPC】からメンテお願いできますか?」
私と桜葉くんがそんな会話をしているのを、皆川さんや佐久間さん…そして池内看護師長さんを含めて8人の看護師さんたちが傍観している。
「了解!それなら私でも対応可能です。…それから、必要なら3台同時進行でお引き受けしましょうか?」
私がカッコつけたわけでもなく、ナチュラルな感じでそう言うと…看護師さんたちのヒソヒソ声が聞こえてきた。
「出しゃばってんじゃないの?」、「3台同時になんてできんの?」――。
……まぁ、【PCメンテナンスの現場】が分からない人からすると、この反応よねー。
しかも、私…女だし。
なんか悔しいんだけど……。 やらせてくれないかな……。
「お願いできれば助かりますが、大丈夫ですか?…無理してません?」
「“姫野さん”、やってみて下さい。」
「“シュウ”!?」
「同時に不具合が起った場合の想定もイメージされてましたよね?『優先順位を考えて…でもユーザーに状況確認する時は、話を聞くが7割…同時進行で行う関連作業の手を動かすのが3割で…。』って。そこまで頭で整理ができているなら、俺はできると思います。……【現場】での実施ですから、『習うより慣れろ』です。……本条課長、良いですか?」
「{あぁ、どんどん実践してもらったら良い。…観月、よく任せたな。良い判断だ。……姫野さんもさすがだ。よく『やります!』と申し出てくれた。改めて言うこともないが…今、あなたがやろうとしているトラブルの対処は日常的に起こる類いのものだ。常務のPCのメンテをしてくれていた姫野さんならすでに対処の経験をしている事例だろう。問題なくこなせるはずだ。ただ、過信はするな。できない時には『NO』や『SOS』を言えることも大事だ。}」
「こちら姫野。…はい。“観月さん”、本条課長。私を信頼して下さってありがとうございます!…作業に入ります。」
そして、私は3台それぞれのメンテナンス作業を同時に進めていった――。
結果は私の見立て通り、「HDD破損」のエラーメッセージも"エラーチェック"や再起動を掛けたら表示されなくなり…電源がつかないPCはプラグの劣化が原因と判明したので、会社から持ってきたものを貸し出すことになった。
新品のものが用意でき次第、後日改めて訪問する流れだ。
私がちょこまかと動いている様子を見て…「ほう、大したものだ。」や「本当ですね。先ほどの電話対応も見事でしたし、見習わなくては…。」という院長先生や佐久間さんの声――。
「女性でパソコンのメンテナンスができる人なんてすごいわね、感心するわ!」という池内師長さんや尾形主任さんの声――。
ただ何も言わず、私を睨みつけてくるだけの…【内科病棟の古株】である寿さん、皆川さん…神田さんの【敵意剥き出しの視線】――。
いろんな"もの"が見えて、聞こえて…落ち着かなくてソワソワした。
嫌になりそうだけど……仕事中よ、集中!負けるな、私!!
自分で気持ちを奮い立たせて、私は作業に集中するよう…意識を戻した。
そんな状況の中でも、背中に感じる【院長先生の手の温もり】と「落ち着いて業務を進めて。」という言葉は…信じられた。
もうすぐグレースクリーンが出ているPCのバックアップが終わる頃かしら。
これが終わっても、新しいHDDと入れ替えたりするんだっけ…。
PCの【中】なんて初めて見るわ…。
私が見ても分からないかもしれないけど、見ておいて損はないはず…。その時になったら傍で見せてもらおう。
そんな風に次の行動を考えていると、ナースステーションの電話が鳴り…尾形主任が一瞬で取った。
「はい。内科病棟、尾形です。」
「{総合受付、香坂です。〔Platina Computer〕の“工藤様”がいらっしゃいました。お荷物が多数あるとのことで、男性にお手伝いいただきたいということです。}」
「〔プラチナ〕さんの…“工藤様”で、男手が必要ね。…了解、姫野さんたちに伝えるわ。」
「樹、護。向かって。」
さすが観月くん。
「尾形主任さん。『桜葉と津田が向かいました。』と香坂さんにお伝え下さい。」
尾形主任から"ありがとう"サインがきた。
「ナイスアシスト!“姫野さん”。」
「いえいえ、“観月さん”。」
「{こちら本条、工藤が来たようだな…。}」
「こちら観月。はい、そうですね。どうしますか?もう…直で〔副院長室〕向かってもらいますか?それから、グレースクリーンPCのバックアップ…3台とも、9割完了しています。」
「{「こちら本条。いや、ひとまずは内科で合流しよう。先ほどの【業務妨害】と【姫野さんに対する暴言】の対処もあるしな。工藤も含めて話を聞いておいてもらう必要がある。だからそれが終わり次第…〔副院長室〕を任せることにする。こっちも【マスターPC】のメンテ、あと数秒で第一段階が終わるってところでキリが良い。…バックアップの状況、了解。}」
「{こちら工藤。桜葉より"ルームID"を聞き、入りました。話を聞く限りトラブルがあったようですね。了解。話を聞いた後、課長と交代し…俺が【マスターPC】のメンテを引き受けます。}」
"さすが工藤さんね、慣れてるわ。"なんて感心していると、「1分、複数通信切るぞ。」なんて課長の声が聞こえてきて――。
それと同時に、【incomily】での"今の課長の位置づけ"…[Host]を示す[H]のボタンと、私の"今の番号"である[3]が押されて驚き…慌ててしまう。
課長との個別通信!
「は、はい!こちら姫野。」
「{姫野さん。同時進行でのメンテありがとう。ずっと会話を聞いていたが、業務捌き見事だった。今から合流するから。…作業中、心細くはなかったか?}」
本条課長の声色がいつもに増して優しく…私を驚くほど安心させてくれる。
あぁ、心配して下さったんですね……。
「いえ、大したことは…。心細さは…少し。でも、院長先生が様子を見ながら『落ち着いて業務を進めて。』と傍で声を掛けて下さってましたから。」
「{そうか。分かった、安心したよ。じゃあ後でな。}」
「はい、お待ちしてます。」と私が言って会話にキリがついたところで、【incomily】が再び複数通信モードに切り替わった。
間もなくして、課長は忍先生とともに内科病棟に姿を見せた。
私はその姿を見て安心したような……。
先ほどの"トラブル"の件がこの後話されるかと思うと、不安になるような……。
そんな複雑な気持ちを抱えていた――。