男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
「院長と私からの話は以上です。…さて、次の作業に入ろう。少なくとも10分は押してるからな。手際よく進めていくぞ。…津田。観月のサポートを桜葉と一緒に頼む。」
「俺より樹にイジらせた方が良いんじゃないですか?細かいとこイジるの…そんなに自信ないんですけど…。」
何言ってんだ、お前も十分器用だよ。
2人の間で【差】があるとしたら、細部の調整をする時にお前の方が若干イライラしやすいってだけだろ。
それで必要部品を破損させたりしたら問題だが、そんなことはしないし…何だかんだ言いつつ2人ともイジってんの好きじゃねぇか。
「おいおい、“お客様”の前だ。不安にさせるな。」
「あっ、そうですね…申し訳ありません。」
「それから、逃げ腰になるな。苦手なら…余計に触れ。場数踏まなきゃ上達しない。普段やれてんだから大丈夫だ、【経験】と【体の勘】を信じろ。それに、何の目的も無しにお前たちをこの2年間俺の《下》に付かせるわけないだろ。8割ぐらいは体が覚えてるさ。そのように仕込んだんだから。」
「分かりました。…なんか課長に言われるとできそうな気がしてくるから、不思議ですよねー。」
「何だそれ。まぁ、それはともかく。失敗を怖がるな。物理的に破損しない限り、全交換なんて事態にはならないんだし…部品の予備は持って来てる。だから気負いすぎる必要はない、いつも通りにやればいい。困るようなことがあれば当然教えるし…代わってもやれるから。」
「まぁ。良いとこ見せようとしすぎなきゃ大丈夫なんじゃない?…困ったら、もちろん手伝うしさ。」
「樹。お前、一言余計だわ。」
ナイス桜葉。今のお前の一言で、観月の緊張もいくらかは解れただろう。
「さて。次は…津田。PCの分解や組み立て作業はどこまでできそうだ?俺に説明できるか?」
「はい。まずは…ベースの部品とかは問題なく分かります。大学の技術実習やインターンでそれなりにやってましたけど、週1で触ってるみたいなことはないので…常に"最新"を追えているわけではないです。」
なるほど。しっかりと現時点での【自分のレベル】を俺にハッキリと言えるということは、【知識】は十分にあり…「週1で触ってるみたいなことはないので―。」と言ってきたところをみると【イジること】もそれなりの頻度でやっているようだな。
「よし。それなら、まずは作業の工程を桜葉の動きを見て…何となくでも掴め。」
「はい!」
「そして…。姫野さんには、俺のアシスタントを頼みたい。事前に渡した資料に目を通してくれていたのは知っているが…工具の名称とか把握できたか?」
観月たちに指示を出した後、俺は振り返り…姫野さんにも指示を出す。
「もちろんです!喜んでやらせていただきます。課長。頂いた資料に載っていた工具を全て把握するには至りませんでしたが、8割は把握できたかと思います。」
「フッ。頼もしいな。じゃあ…やっていこうか。……と、言いたいところだが…工藤。」
「はい。」
「【マスターPC】のメンテナンス進捗状況だが、全体のクイックスキャンは終了していて、目立ったウィルス検出は無し。…システムのエラーチェックを掛けてきたところで部屋を出てきた。後を頼む。」
「了解です、課長。……それから。作業に入ろうとしているところ申し訳ないのですが、立花さんから『姫野さんに。』と【預かってきたもの】があるので、それだけお渡ししてしますね。」
「うん?(えっ?)立花さんから?」
姫野さんと同じ反応をしてしまったから、お互いに一瞬視線を交えて微かに口角を上げた。
「フッ。姫野さんも…課長との相性良さそうですね。まさかこんなに息ピッタリの反応が見られるとは…。【貴重なもの】が見れました。これで、俺の残業の日も少しずつ減っていくかな。」
「『上がれ。』って声掛けても残業してるのはお前だろ?工藤。…まぁ、"D"から"F"の【手が回ってない仕事】を捌いてもらってるのは事実だがな。それより、早く渡してやれよ…【預かってきたもの】を…。」
「そうでした。"コレ"ですね。」
あっ、【帯電防止手袋】…。
俺としたことが、伝えるの忘れてたな…。悪い…姫野さん、津田。
そして、ありがとう…立花さん。
「布手袋?…あ、そっか。パーツ触りますからね。」
「ご名答だ、姫野さん。さすが。申し訳ない、伝え忘れていた。」
「いえ、課長。今週末にでも早速揃えてきますね。」
そう言って彼女は、俺に穏やかな表情を向けた。
「『"今日のところは…私の予備を貸し出しておくわね。暇な時に自分用のもの買いに行ってきて。それと洗濯とか気にせずにそのまま返してくれれば…"。って伝えて。』と言ってましたよ。ちなみに、津田は…あるか?」
「大丈夫です、持ってきてます。ありがとうございます、工藤さん。」
「そうか。…なら、貸す必要はなさそうだな。」
「ありがとうございました、工藤さん。届けていただいて。…洗濯して返さないなんて、申し訳ないのでちゃんと綺麗にしてから返すことにします。」
「彼女は気にしないようでしたが、姫野さんが気になるようなら…そうしてあげて下さい。"そういうところ"があなたの魅力で、だから課長にしても立花さんにしても気にしてるんでしょうね…。」
あぁ、まさに…だ。
立花さんはもちろん、お前にも伝わってて良かったよ。
「えぇっ!そんなことは…。」
「いや、人を不快にさせない気遣いや振る舞いができる人というのは…男性にも女性にも"人として"好かれますよ。それともう一つ…。これに関しては、俺も立花さんと同意見だったんですが…布手袋や【精度の良い手頃な値段のイヤホンは近日中の購入をオススメしますよ。"Aチーム"は特に必要ですから。本条課長はあなたのことも"頼っていける存在"にしたいみたいですし?」
そう言って工藤は…わざとらしく微笑しながら、俺に視線を寄越してくる。
コノヤロー。
お前の"こういう時"の【含み笑い】は、ホント…ムカつくぜ。
……あとで覚えとけ。
「そんな!滅相もない!でも嬉しいです、そんな風に言っていただけるなんて…。えっ!課長が!?…私にそんな役回りは早すぎますよ!…でも、【備えあれば憂なし】ですし、用意は早急にしておきます。」
「さて。それじゃあ、【課長のお怒り】を買う前に…とっとと逃げて仕事してくるとしましょうか。」
「ふふふっ。工藤さんったら。……お2人の関係性、とても素敵ですね。【深さ】を感じます。」
「えぇ。いわば、師弟の関係ですからね。ありがとうございます、異性から初めて言っていただきました…。『【素敵な関係】だ。』なんて…。」
「だいたい、『何考えてるか分からない。』って言われるしな。そんなことより【マスターPC】。」
こうして、「はい。」と返事した工藤は兄さんとともに〔副院長室〕へ向かっていった。
「俺より樹にイジらせた方が良いんじゃないですか?細かいとこイジるの…そんなに自信ないんですけど…。」
何言ってんだ、お前も十分器用だよ。
2人の間で【差】があるとしたら、細部の調整をする時にお前の方が若干イライラしやすいってだけだろ。
それで必要部品を破損させたりしたら問題だが、そんなことはしないし…何だかんだ言いつつ2人ともイジってんの好きじゃねぇか。
「おいおい、“お客様”の前だ。不安にさせるな。」
「あっ、そうですね…申し訳ありません。」
「それから、逃げ腰になるな。苦手なら…余計に触れ。場数踏まなきゃ上達しない。普段やれてんだから大丈夫だ、【経験】と【体の勘】を信じろ。それに、何の目的も無しにお前たちをこの2年間俺の《下》に付かせるわけないだろ。8割ぐらいは体が覚えてるさ。そのように仕込んだんだから。」
「分かりました。…なんか課長に言われるとできそうな気がしてくるから、不思議ですよねー。」
「何だそれ。まぁ、それはともかく。失敗を怖がるな。物理的に破損しない限り、全交換なんて事態にはならないんだし…部品の予備は持って来てる。だから気負いすぎる必要はない、いつも通りにやればいい。困るようなことがあれば当然教えるし…代わってもやれるから。」
「まぁ。良いとこ見せようとしすぎなきゃ大丈夫なんじゃない?…困ったら、もちろん手伝うしさ。」
「樹。お前、一言余計だわ。」
ナイス桜葉。今のお前の一言で、観月の緊張もいくらかは解れただろう。
「さて。次は…津田。PCの分解や組み立て作業はどこまでできそうだ?俺に説明できるか?」
「はい。まずは…ベースの部品とかは問題なく分かります。大学の技術実習やインターンでそれなりにやってましたけど、週1で触ってるみたいなことはないので…常に"最新"を追えているわけではないです。」
なるほど。しっかりと現時点での【自分のレベル】を俺にハッキリと言えるということは、【知識】は十分にあり…「週1で触ってるみたいなことはないので―。」と言ってきたところをみると【イジること】もそれなりの頻度でやっているようだな。
「よし。それなら、まずは作業の工程を桜葉の動きを見て…何となくでも掴め。」
「はい!」
「そして…。姫野さんには、俺のアシスタントを頼みたい。事前に渡した資料に目を通してくれていたのは知っているが…工具の名称とか把握できたか?」
観月たちに指示を出した後、俺は振り返り…姫野さんにも指示を出す。
「もちろんです!喜んでやらせていただきます。課長。頂いた資料に載っていた工具を全て把握するには至りませんでしたが、8割は把握できたかと思います。」
「フッ。頼もしいな。じゃあ…やっていこうか。……と、言いたいところだが…工藤。」
「はい。」
「【マスターPC】のメンテナンス進捗状況だが、全体のクイックスキャンは終了していて、目立ったウィルス検出は無し。…システムのエラーチェックを掛けてきたところで部屋を出てきた。後を頼む。」
「了解です、課長。……それから。作業に入ろうとしているところ申し訳ないのですが、立花さんから『姫野さんに。』と【預かってきたもの】があるので、それだけお渡ししてしますね。」
「うん?(えっ?)立花さんから?」
姫野さんと同じ反応をしてしまったから、お互いに一瞬視線を交えて微かに口角を上げた。
「フッ。姫野さんも…課長との相性良さそうですね。まさかこんなに息ピッタリの反応が見られるとは…。【貴重なもの】が見れました。これで、俺の残業の日も少しずつ減っていくかな。」
「『上がれ。』って声掛けても残業してるのはお前だろ?工藤。…まぁ、"D"から"F"の【手が回ってない仕事】を捌いてもらってるのは事実だがな。それより、早く渡してやれよ…【預かってきたもの】を…。」
「そうでした。"コレ"ですね。」
あっ、【帯電防止手袋】…。
俺としたことが、伝えるの忘れてたな…。悪い…姫野さん、津田。
そして、ありがとう…立花さん。
「布手袋?…あ、そっか。パーツ触りますからね。」
「ご名答だ、姫野さん。さすが。申し訳ない、伝え忘れていた。」
「いえ、課長。今週末にでも早速揃えてきますね。」
そう言って彼女は、俺に穏やかな表情を向けた。
「『"今日のところは…私の予備を貸し出しておくわね。暇な時に自分用のもの買いに行ってきて。それと洗濯とか気にせずにそのまま返してくれれば…"。って伝えて。』と言ってましたよ。ちなみに、津田は…あるか?」
「大丈夫です、持ってきてます。ありがとうございます、工藤さん。」
「そうか。…なら、貸す必要はなさそうだな。」
「ありがとうございました、工藤さん。届けていただいて。…洗濯して返さないなんて、申し訳ないのでちゃんと綺麗にしてから返すことにします。」
「彼女は気にしないようでしたが、姫野さんが気になるようなら…そうしてあげて下さい。"そういうところ"があなたの魅力で、だから課長にしても立花さんにしても気にしてるんでしょうね…。」
あぁ、まさに…だ。
立花さんはもちろん、お前にも伝わってて良かったよ。
「えぇっ!そんなことは…。」
「いや、人を不快にさせない気遣いや振る舞いができる人というのは…男性にも女性にも"人として"好かれますよ。それともう一つ…。これに関しては、俺も立花さんと同意見だったんですが…布手袋や【精度の良い手頃な値段のイヤホンは近日中の購入をオススメしますよ。"Aチーム"は特に必要ですから。本条課長はあなたのことも"頼っていける存在"にしたいみたいですし?」
そう言って工藤は…わざとらしく微笑しながら、俺に視線を寄越してくる。
コノヤロー。
お前の"こういう時"の【含み笑い】は、ホント…ムカつくぜ。
……あとで覚えとけ。
「そんな!滅相もない!でも嬉しいです、そんな風に言っていただけるなんて…。えっ!課長が!?…私にそんな役回りは早すぎますよ!…でも、【備えあれば憂なし】ですし、用意は早急にしておきます。」
「さて。それじゃあ、【課長のお怒り】を買う前に…とっとと逃げて仕事してくるとしましょうか。」
「ふふふっ。工藤さんったら。……お2人の関係性、とても素敵ですね。【深さ】を感じます。」
「えぇ。いわば、師弟の関係ですからね。ありがとうございます、異性から初めて言っていただきました…。『【素敵な関係】だ。』なんて…。」
「だいたい、『何考えてるか分からない。』って言われるしな。そんなことより【マスターPC】。」
こうして、「はい。」と返事した工藤は兄さんとともに〔副院長室〕へ向かっていった。