男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
24th Data 工藤さんの洞察力 ◇雅 side◇
「はい。それじゃ、各自…処置物品の補充や点滴の交換等行ってきて!」
“池内師長さん”が、テキパキと指示を飛ばす。
ナースステーションから各フロアへ向かう時、寿さんと皆川さんは名残惜しそうに本条課長を見つめる。
そういえば、さっきも神田さんが本条先生を見つめてたわね。
まぁ、2人とも全然相手にしてないけど。
「さて、俺たちも始めていくが…。観月、もうちょっと奥入ってこい。そこでパーツ広げて座り込んだら…皆さんの邪魔になる。急患が来たら人や道具の出入りがあるって言ってるだろ。毎回は訪問しないといっても数回は来てるんだから、いい加減覚えろよー。俺たちの仕事を止めず進めるのも大事だが、クライアントの業務はなおさら止めるな。」
確かに……。ごもっともです、課長。
「ハッ!いっけね、そうだ。はいっ!すみません!」
「ハッ、そうでした。俺も何も考えずに作業に入るところでした。」
観月くん、桜葉くん、それぞれが"やっちゃったー。"という顔をしていた。
「姫野さんと津田も覚えておくように。場所の確保に困ったら、必ず【現場】の責任者に聞くこと…いいな?」
「はい。」
「ちなみに、今の場合だと“池内看護師長さん”に聞くのが一番だ。」
私と津田くんが「はい。」と返事したタイミングで桜葉くんも短く声を発した。
「…あ、課長!ダンボール!いつも通り…車のトランクですよね?取ってきましょうか?」
ダンボール? 何するんだろう…。
「あ、そうだな。取って…。」
「何かが足りない気がしていたが…それだね。池内師長、【成人男性が2人ほど座って作業ができるぐらいのダンボール】を用意できますか?…いつも“本条課長”が座ってメンテナンスをしている時に敷かれているでしょう?」
"何かが足りない気がしてた"なんて、違和感に気づくの…すごいなぁ。
課長が機械触ってるところを何度か見てるのね、きっと。
「院長!?これはこちらのミスですし、そんなことまでは…!」
目を見開いて驚いてる課長。
こんな“彼”…初めて見たかも。
でも、どこか安心してる優しい表情してるように見える。
これはきっと…相手がお父様だからなんだろうなぁ。
「今日はうちの看護師があなた方の業務を滞らせてしまっているし、これぐらいはさせて下さい。それに、今日のあなたの【一番の仕事】は… “観月さん”たちとともに“姫野さん”と“津田さん”に【現場】を教えることのはず。【監督者】がここを離れては…“新人さん”たちが戸惑いますよ。」
「確かに、それはそうなんですが…。」
「あっ!そうでしたね!……そうですよ。ダンボールを用意するぐらいさせて下さい。…すぐご用意できますから少々お待ち下さいね。佐久間くん、手伝って。」
「はい、師長。」
「ありがとうございます、師長さん。」
“師長さん”と佐久間さんに手頃なダンボールを見繕ってもらっている間に、なぜそれが必要なのかを課長から教わった。
今日はそこまでの作業にはなっていないけれど、場合によっては【半田ごて】などを使用することもあるらしいので"床を汚さないために"ということだった。
また、「外したネジや部品が転がっても、茶色のダンボールの上なら見つかりやすいから。」とも本条課長は言っていた。
なるほどね。確かにそうだわ。
そんな風に感心したのだけれど…それと同時に私は【あること】に気づいて慌てる。
"ちょっと待って?ダンボールの上に座る?…タイトスカート、ダメなんじゃない?膝まで覆えるとはいえ座るとちょっと上がるよね!正座ならセーフかしら?もう!どうして気づかなかったの?準備不足にも程があるわ!次回から【外回り】の時はパンツスーツにするとして…今日はどうしよう!"
そんなことに考えを巡らせていると、お2人が戻ってきた。
「お待たせしました。“本条課長さん”、ひとまず4枚ほど茶色のものを持ってきましたけど足りるかしら?…それから、姫野さんには"これ"…タオルね。…そういえば、以前も"こんなこと"がありましたね。“立花さん”って仰ったかしら…。数年前に、先ほどまでここに一緒にいらっしゃった“工藤さん”とともに緊急で【応援】に駆けつけて下さった方。」
師長さん、さすが!お気遣いありがとうございます!
そっか、立花さんもあったんだ。なんだか安心したわ。
「あっ、ありがとうございます。それに、わざわざ【茶色いもの】を探してきていただいて。でも、なぜ茶色だと?…うん?タオル?……あー。思い出しました。ありましたね、"そんなこと"が。そうですね。あれは立花でしたね。…男が多い部署なので気が回らず申し訳ない。私の代わりに気づいて下さってありがとうございました。…じゃあ、タオルは姫野さんに。」
「ありがとうございます、師長さん。お借りします。そして、課長。私の準備不足でした、申し訳ございません。以後気をつけます。」
私がそう言うと、課長は申し訳なさそうに…そして恥ずかしそうに、「あぁ。」と短く返事をした。
そんな【何とも言えない空気】を、師長さんは"課長からの質問"に答えることで再び変えてくれる。
「いいえー。姫野さん、“本条課長さん”。…あっ、そうだ。他の科を回る間も持ってていただいて大丈夫ですから。全科を回り終えた後…院長に預けて下さい。おそらく、この後もあなた方について行くでしょうから。……"なぜ茶色だと分かったか"と言えば、ダンボールを取りに向かう時、院長の横を通ったので…その際に耳打ちで指示がありましたよ。『大学時代から変わらずの作業スタイルだから間違いないだろう。』って。」
ふふふっ。院長先生ったら、課長が大好きなんですね…。
「はは、なんか…恥ずかしいですね。…さて、ダンボールもご用意していただいたから早速始めていくぞ。」
「はい。」
課長の言葉に対して、私たち4人はしっかりと返事し…布手袋もしっかりと装着して作業を開始する。
「姫野さん。HDDの交換作業の際はバックアップ終了後…まずは足りないデータがないかユーザーに確認をしてもらう。データが破損していたり他のソフトやプログラムがバックグランドで起動していて、それとの兼ね合いもあり…正常に移行ができていない場合もあるからだ。」
私は課長の隣に敷かれたダンボールに場所を取らないように座った。
そしてお借りしたタオルを膝に掛け…準備を整えたのを目視してから課長はそう言い、そのままの流れで師長さんを呼んだ。
ちなみに、観月くんたちの方には尾形主任が居て…確認作業を進めている。
「そうですね、了解です。」
「移行データに特に問題が無ければ、HDDの交換作業へ移っていく。交換作業は基本的にドライバー1本あれば事足りる。…さて。池内師長さん、ご確認下さい。"有るはずのファイルやフォルダが無い"といったことはございませんか?」
ドライバー1本で直せる?
いやいや、そんなことないですよね。もっと複雑なことをやられているでしょう。
「えっと…。あっ!とある患者様のフォルダが無いですね。2名分ほど。」
「何かの拍子にこのハードディスクから移動した可能性もあるので…このパソコン内に残っていないかお調べしますね。」
さすが課長。師長さんへ何をするかの説明をしつつ…何気に私への説明もサラッとこなしちゃってる。
“池内師長さん”が、テキパキと指示を飛ばす。
ナースステーションから各フロアへ向かう時、寿さんと皆川さんは名残惜しそうに本条課長を見つめる。
そういえば、さっきも神田さんが本条先生を見つめてたわね。
まぁ、2人とも全然相手にしてないけど。
「さて、俺たちも始めていくが…。観月、もうちょっと奥入ってこい。そこでパーツ広げて座り込んだら…皆さんの邪魔になる。急患が来たら人や道具の出入りがあるって言ってるだろ。毎回は訪問しないといっても数回は来てるんだから、いい加減覚えろよー。俺たちの仕事を止めず進めるのも大事だが、クライアントの業務はなおさら止めるな。」
確かに……。ごもっともです、課長。
「ハッ!いっけね、そうだ。はいっ!すみません!」
「ハッ、そうでした。俺も何も考えずに作業に入るところでした。」
観月くん、桜葉くん、それぞれが"やっちゃったー。"という顔をしていた。
「姫野さんと津田も覚えておくように。場所の確保に困ったら、必ず【現場】の責任者に聞くこと…いいな?」
「はい。」
「ちなみに、今の場合だと“池内看護師長さん”に聞くのが一番だ。」
私と津田くんが「はい。」と返事したタイミングで桜葉くんも短く声を発した。
「…あ、課長!ダンボール!いつも通り…車のトランクですよね?取ってきましょうか?」
ダンボール? 何するんだろう…。
「あ、そうだな。取って…。」
「何かが足りない気がしていたが…それだね。池内師長、【成人男性が2人ほど座って作業ができるぐらいのダンボール】を用意できますか?…いつも“本条課長”が座ってメンテナンスをしている時に敷かれているでしょう?」
"何かが足りない気がしてた"なんて、違和感に気づくの…すごいなぁ。
課長が機械触ってるところを何度か見てるのね、きっと。
「院長!?これはこちらのミスですし、そんなことまでは…!」
目を見開いて驚いてる課長。
こんな“彼”…初めて見たかも。
でも、どこか安心してる優しい表情してるように見える。
これはきっと…相手がお父様だからなんだろうなぁ。
「今日はうちの看護師があなた方の業務を滞らせてしまっているし、これぐらいはさせて下さい。それに、今日のあなたの【一番の仕事】は… “観月さん”たちとともに“姫野さん”と“津田さん”に【現場】を教えることのはず。【監督者】がここを離れては…“新人さん”たちが戸惑いますよ。」
「確かに、それはそうなんですが…。」
「あっ!そうでしたね!……そうですよ。ダンボールを用意するぐらいさせて下さい。…すぐご用意できますから少々お待ち下さいね。佐久間くん、手伝って。」
「はい、師長。」
「ありがとうございます、師長さん。」
“師長さん”と佐久間さんに手頃なダンボールを見繕ってもらっている間に、なぜそれが必要なのかを課長から教わった。
今日はそこまでの作業にはなっていないけれど、場合によっては【半田ごて】などを使用することもあるらしいので"床を汚さないために"ということだった。
また、「外したネジや部品が転がっても、茶色のダンボールの上なら見つかりやすいから。」とも本条課長は言っていた。
なるほどね。確かにそうだわ。
そんな風に感心したのだけれど…それと同時に私は【あること】に気づいて慌てる。
"ちょっと待って?ダンボールの上に座る?…タイトスカート、ダメなんじゃない?膝まで覆えるとはいえ座るとちょっと上がるよね!正座ならセーフかしら?もう!どうして気づかなかったの?準備不足にも程があるわ!次回から【外回り】の時はパンツスーツにするとして…今日はどうしよう!"
そんなことに考えを巡らせていると、お2人が戻ってきた。
「お待たせしました。“本条課長さん”、ひとまず4枚ほど茶色のものを持ってきましたけど足りるかしら?…それから、姫野さんには"これ"…タオルね。…そういえば、以前も"こんなこと"がありましたね。“立花さん”って仰ったかしら…。数年前に、先ほどまでここに一緒にいらっしゃった“工藤さん”とともに緊急で【応援】に駆けつけて下さった方。」
師長さん、さすが!お気遣いありがとうございます!
そっか、立花さんもあったんだ。なんだか安心したわ。
「あっ、ありがとうございます。それに、わざわざ【茶色いもの】を探してきていただいて。でも、なぜ茶色だと?…うん?タオル?……あー。思い出しました。ありましたね、"そんなこと"が。そうですね。あれは立花でしたね。…男が多い部署なので気が回らず申し訳ない。私の代わりに気づいて下さってありがとうございました。…じゃあ、タオルは姫野さんに。」
「ありがとうございます、師長さん。お借りします。そして、課長。私の準備不足でした、申し訳ございません。以後気をつけます。」
私がそう言うと、課長は申し訳なさそうに…そして恥ずかしそうに、「あぁ。」と短く返事をした。
そんな【何とも言えない空気】を、師長さんは"課長からの質問"に答えることで再び変えてくれる。
「いいえー。姫野さん、“本条課長さん”。…あっ、そうだ。他の科を回る間も持ってていただいて大丈夫ですから。全科を回り終えた後…院長に預けて下さい。おそらく、この後もあなた方について行くでしょうから。……"なぜ茶色だと分かったか"と言えば、ダンボールを取りに向かう時、院長の横を通ったので…その際に耳打ちで指示がありましたよ。『大学時代から変わらずの作業スタイルだから間違いないだろう。』って。」
ふふふっ。院長先生ったら、課長が大好きなんですね…。
「はは、なんか…恥ずかしいですね。…さて、ダンボールもご用意していただいたから早速始めていくぞ。」
「はい。」
課長の言葉に対して、私たち4人はしっかりと返事し…布手袋もしっかりと装着して作業を開始する。
「姫野さん。HDDの交換作業の際はバックアップ終了後…まずは足りないデータがないかユーザーに確認をしてもらう。データが破損していたり他のソフトやプログラムがバックグランドで起動していて、それとの兼ね合いもあり…正常に移行ができていない場合もあるからだ。」
私は課長の隣に敷かれたダンボールに場所を取らないように座った。
そしてお借りしたタオルを膝に掛け…準備を整えたのを目視してから課長はそう言い、そのままの流れで師長さんを呼んだ。
ちなみに、観月くんたちの方には尾形主任が居て…確認作業を進めている。
「そうですね、了解です。」
「移行データに特に問題が無ければ、HDDの交換作業へ移っていく。交換作業は基本的にドライバー1本あれば事足りる。…さて。池内師長さん、ご確認下さい。"有るはずのファイルやフォルダが無い"といったことはございませんか?」
ドライバー1本で直せる?
いやいや、そんなことないですよね。もっと複雑なことをやられているでしょう。
「えっと…。あっ!とある患者様のフォルダが無いですね。2名分ほど。」
「何かの拍子にこのハードディスクから移動した可能性もあるので…このパソコン内に残っていないかお調べしますね。」
さすが課長。師長さんへ何をするかの説明をしつつ…何気に私への説明もサラッとこなしちゃってる。