男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
「えっと…あっ、出てきましたね。こちらのフォルダでしょうか?」
「あっ、そうです。」
そう答える師長さんの視線の先には確かに探しているであろうフォルダがあり、その右上には【赤いバツ印】が付いている。
【この表示】になってるってことは、それぞれのファイル形式がおかしくなってるわね…おそらく。
「分かりました。ただ、開けない状態になっているようですね。…ということで。〔副院長室〕にある大型パソコンから復元します、直せるものなのでご安心下さい。」
そっか、【マスターPC】から復元用のデータを持ってくるのね。
考えてみれば、そのための【マスターPC】だものね。
「こちら本条。工藤、現在の作業状況は?内科に関係ある部分のサーバーに入って大丈夫か?作業が中断するようなら待つが…。」
「{こちら工藤。現在、時短のため【PL-X327】の一部のプログラム構築を手動で行っています。自動更新を待っていられないので。それから、各科のPCから出ている可能性があるプログラムエラーの整理をしています。……破損データがあったんですね?いいですよ。入ってきていただいて。あとは外科のシステムエラーの整理だけ終わればそちらに合流できます。}」
「こちら本条……了解。」
「こちら観月。現在、課長と“姫野さん”…俺と桜葉と津田の二手に分かれて作業をしています。俺たちの方でも破損データありなので入って良いですか?」
「{こちら工藤。同時接続、問題なし。こちらの作業に影響なし…どうぞ。}」
「こちら観月……了解です。」
ここまでのやり取りをした後、ログイン作業の部分のみ佐久間さんにお手伝いいただきながらサーバーに入って不足していたデータを抽出し、バックアップ作業を完了させた。
「さて、これでパーツ交換ための下準備が終わったことになる。」
「はい。」
「ここからHDDの交換をしていくんだが、姫野さんには…"俺の手に必要な工具を渡す"ってことをしつつ、【PCの中を開ける作業がどんなものか】を見て…掴んでほしいと思う。今日は"なんとなく"で構わないから。」
「はい、分かりました。」
「あら、なんか姫野さん…“オペ看”みたいなことするんですね。」
オペ看とは、病棟ではなく手術室で働く看護師さんのことを指すと聞いたことがある。
外科医をモデルに作られたドラマなんかで、ドクターに「メス。」と言われて渡している…あの看護師さんたちだ。
「はは。確かにそうだね、師長。」
「あら、院長が話に入ってくるなんて…。」
「院長が饒舌なのは…あれでしょう?おそらく姫野さんが居るからですよ、師長。院長は…姫野さんのファンですから。」
佐久間さん、なんてことを…!
やめて下さい、恥ずかしいです!
「あはは、“オペ室の看護師さん”ですか。言われてみると、確かにそうかもしれませんね。ただ、私が彼女から受け取るのは…主にドライバーですが。」
「クスッ!ふふふっ。渡すものが、"メス"じゃなくて"ドライバー"なの…想像したら笑えてきちゃいますね。」
「確かに想像するとシュールだな。…フッ、ようやく笑ったな。良かったよ、緊迫感解けてきたみたいで。さて…それじゃ、そのリラックスした状態でやっていこう…プラスのボールグリップドライバー。」
ボールグリップドライバーだから…グリップが球状になってる"これ"ね…。
「はい。」
「サンキュ。あと…工具箱から【パーツケース】出して開けておいてくれないか。」
「はい。…開けました。」
「サンキュ。さて、じゃあ…俺の手元を見て。今、PCの底のネジを3本外した。最後の1本を外していくんだが…【注視してほしいポイント】がある。何だか分かるか?」
見るポイント? えっ…何かしら。
待って?この1週間いろいろ下調べした中に、何かなかったかな…。
思い出して、私!
「えっと…あっ!【ネジが鯖ていないか確認する】です。」
「合ってますよ、“姫野さん”。ただ…もう一つあったはずです。思い出して…。俺と一緒に【分解や組立の手順が書いてあるサイト】見ましたよね。」
観月くん…。すごいなぁ、自分も作業してるのに私たちの話も聞いてるんだ。
「お、観月。余裕出てきたじゃないか、去年の秋頃と明らかに違うな。成長したよ。」
「ありがとうございます。…でも、そりゃそうですよ。2月の終わりから護の面倒見なきゃでしたし…『4月から“指導係”やってみろ。』なんて“上司”から言われますし?」
ふふっ、もう【お馴染みの光景】になってきたわね。
課長と観月くんたちの【じゃれ合い】も…。
「良い経験できてるだろう?」
課長はそう言って、ニヒルな笑みを浮かべた。
「さて…姫野さん。どうだ?見当つきそうか?」
「うーんっと…あ、思い出しました。【ネジ山】だ!『ネジに合わないドライバーで締めないように。』って教えてもらいました!『【ネジ山】が潰れちゃって締まらなくなるから、物が固定できなくなって意味が無くなるんです。』って言ってました。」
「さすが姫野さん。正解だ。(ですよ。)」
観月くんは、首だけ私たちの方に振り向かせ…課長と同時にそう言う。
「観月や桜葉に、しっかり教わったようだな。まさにその通りなんだ。これはPCのどの部分を修理するにしても言えることだから覚えておいて。」
私にそう説明しつつ手を止めずに作業を手早く進める課長は、さすがだと思った。
**
「課長、残りの1台も終わりましたよ。なんか護に細かい説明まで要らないようでしたし、『急いでるから手分けしよう。』って“シュウ”がフォローも引き受けてくれたので任せました。」
「おぉ、そうか。助かったよ。観月、桜葉。……さて。“姫野”の作業に対しての知識や手際はいかがでしたか?寿さん、皆川さん、神田さん。」
課長の言葉を聞いて"えっ?"と思い、3人の姿を探すと…私の1mぐらい後ろに立っていた。
どうやら、【物品の補充】等の仕事を終えて戻ってきたようだ。
そして、3人は…悔しそうに頷いた。
とりあえず認められたみたいね…今日のところは。
ここまできても【謝罪の言葉】が聞けないのは残念だけど、それは“この人たち”に【求めちゃいけないもの】ね…。
「課長、次は何科に行くんでしたっけ?」
「外科だな。工藤が【マスターPC】の調整をしてる最中にエラー見つけたらしいから。」
「外科…。」
観月くんと課長の会話に、体がピクッと反応した。
「“姫野さん”?どうしましたか?何か不安なことがあるように見えるが…大丈夫ですか?」
「えっと…。」
prrr……
「おっ!私の"仕事用の携帯"だね、失礼。…あぁ、副院長どうしました?…あぁ。工藤さんがそちらでの作業を終えて“本条課長さん”たちと合流するんだね?…今話していたんだが、外科に行かれるそうだよ。…ん?“安井先生”?研修医の?…うん、とにかく“姫野さん”に伝えれば良いんだね?分かった。…“神代先生”のことも伝えれば分かるね?…分かった、はいはい。」
「あっ、そうです。」
そう答える師長さんの視線の先には確かに探しているであろうフォルダがあり、その右上には【赤いバツ印】が付いている。
【この表示】になってるってことは、それぞれのファイル形式がおかしくなってるわね…おそらく。
「分かりました。ただ、開けない状態になっているようですね。…ということで。〔副院長室〕にある大型パソコンから復元します、直せるものなのでご安心下さい。」
そっか、【マスターPC】から復元用のデータを持ってくるのね。
考えてみれば、そのための【マスターPC】だものね。
「こちら本条。工藤、現在の作業状況は?内科に関係ある部分のサーバーに入って大丈夫か?作業が中断するようなら待つが…。」
「{こちら工藤。現在、時短のため【PL-X327】の一部のプログラム構築を手動で行っています。自動更新を待っていられないので。それから、各科のPCから出ている可能性があるプログラムエラーの整理をしています。……破損データがあったんですね?いいですよ。入ってきていただいて。あとは外科のシステムエラーの整理だけ終わればそちらに合流できます。}」
「こちら本条……了解。」
「こちら観月。現在、課長と“姫野さん”…俺と桜葉と津田の二手に分かれて作業をしています。俺たちの方でも破損データありなので入って良いですか?」
「{こちら工藤。同時接続、問題なし。こちらの作業に影響なし…どうぞ。}」
「こちら観月……了解です。」
ここまでのやり取りをした後、ログイン作業の部分のみ佐久間さんにお手伝いいただきながらサーバーに入って不足していたデータを抽出し、バックアップ作業を完了させた。
「さて、これでパーツ交換ための下準備が終わったことになる。」
「はい。」
「ここからHDDの交換をしていくんだが、姫野さんには…"俺の手に必要な工具を渡す"ってことをしつつ、【PCの中を開ける作業がどんなものか】を見て…掴んでほしいと思う。今日は"なんとなく"で構わないから。」
「はい、分かりました。」
「あら、なんか姫野さん…“オペ看”みたいなことするんですね。」
オペ看とは、病棟ではなく手術室で働く看護師さんのことを指すと聞いたことがある。
外科医をモデルに作られたドラマなんかで、ドクターに「メス。」と言われて渡している…あの看護師さんたちだ。
「はは。確かにそうだね、師長。」
「あら、院長が話に入ってくるなんて…。」
「院長が饒舌なのは…あれでしょう?おそらく姫野さんが居るからですよ、師長。院長は…姫野さんのファンですから。」
佐久間さん、なんてことを…!
やめて下さい、恥ずかしいです!
「あはは、“オペ室の看護師さん”ですか。言われてみると、確かにそうかもしれませんね。ただ、私が彼女から受け取るのは…主にドライバーですが。」
「クスッ!ふふふっ。渡すものが、"メス"じゃなくて"ドライバー"なの…想像したら笑えてきちゃいますね。」
「確かに想像するとシュールだな。…フッ、ようやく笑ったな。良かったよ、緊迫感解けてきたみたいで。さて…それじゃ、そのリラックスした状態でやっていこう…プラスのボールグリップドライバー。」
ボールグリップドライバーだから…グリップが球状になってる"これ"ね…。
「はい。」
「サンキュ。あと…工具箱から【パーツケース】出して開けておいてくれないか。」
「はい。…開けました。」
「サンキュ。さて、じゃあ…俺の手元を見て。今、PCの底のネジを3本外した。最後の1本を外していくんだが…【注視してほしいポイント】がある。何だか分かるか?」
見るポイント? えっ…何かしら。
待って?この1週間いろいろ下調べした中に、何かなかったかな…。
思い出して、私!
「えっと…あっ!【ネジが鯖ていないか確認する】です。」
「合ってますよ、“姫野さん”。ただ…もう一つあったはずです。思い出して…。俺と一緒に【分解や組立の手順が書いてあるサイト】見ましたよね。」
観月くん…。すごいなぁ、自分も作業してるのに私たちの話も聞いてるんだ。
「お、観月。余裕出てきたじゃないか、去年の秋頃と明らかに違うな。成長したよ。」
「ありがとうございます。…でも、そりゃそうですよ。2月の終わりから護の面倒見なきゃでしたし…『4月から“指導係”やってみろ。』なんて“上司”から言われますし?」
ふふっ、もう【お馴染みの光景】になってきたわね。
課長と観月くんたちの【じゃれ合い】も…。
「良い経験できてるだろう?」
課長はそう言って、ニヒルな笑みを浮かべた。
「さて…姫野さん。どうだ?見当つきそうか?」
「うーんっと…あ、思い出しました。【ネジ山】だ!『ネジに合わないドライバーで締めないように。』って教えてもらいました!『【ネジ山】が潰れちゃって締まらなくなるから、物が固定できなくなって意味が無くなるんです。』って言ってました。」
「さすが姫野さん。正解だ。(ですよ。)」
観月くんは、首だけ私たちの方に振り向かせ…課長と同時にそう言う。
「観月や桜葉に、しっかり教わったようだな。まさにその通りなんだ。これはPCのどの部分を修理するにしても言えることだから覚えておいて。」
私にそう説明しつつ手を止めずに作業を手早く進める課長は、さすがだと思った。
**
「課長、残りの1台も終わりましたよ。なんか護に細かい説明まで要らないようでしたし、『急いでるから手分けしよう。』って“シュウ”がフォローも引き受けてくれたので任せました。」
「おぉ、そうか。助かったよ。観月、桜葉。……さて。“姫野”の作業に対しての知識や手際はいかがでしたか?寿さん、皆川さん、神田さん。」
課長の言葉を聞いて"えっ?"と思い、3人の姿を探すと…私の1mぐらい後ろに立っていた。
どうやら、【物品の補充】等の仕事を終えて戻ってきたようだ。
そして、3人は…悔しそうに頷いた。
とりあえず認められたみたいね…今日のところは。
ここまできても【謝罪の言葉】が聞けないのは残念だけど、それは“この人たち”に【求めちゃいけないもの】ね…。
「課長、次は何科に行くんでしたっけ?」
「外科だな。工藤が【マスターPC】の調整をしてる最中にエラー見つけたらしいから。」
「外科…。」
観月くんと課長の会話に、体がピクッと反応した。
「“姫野さん”?どうしましたか?何か不安なことがあるように見えるが…大丈夫ですか?」
「えっと…。」
prrr……
「おっ!私の"仕事用の携帯"だね、失礼。…あぁ、副院長どうしました?…あぁ。工藤さんがそちらでの作業を終えて“本条課長さん”たちと合流するんだね?…今話していたんだが、外科に行かれるそうだよ。…ん?“安井先生”?研修医の?…うん、とにかく“姫野さん”に伝えれば良いんだね?分かった。…“神代先生”のことも伝えれば分かるね?…分かった、はいはい。」