男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
「おはようございま――。早くないですか!?姫野さん!部長や課長たちが居るのは、いつものことですけど。……あ、そっか。PCの初期化か…。」
「おはようございます。“観月さん”、“桜葉さん”。そうです、初期化作業。」
午前8時10分――。
〔営業〕の“若き2トップ”がご到着のようだ。
「やめて下さいよ、『観月さん』なんて…。確かに〔営業1課〕では俺の方が先輩ですけど、勤続年数的には姫野さんの方が長いんですから。せめて『観月くん』って呼んで下さい。むしろ、俺の方が“雅姉さん”って呼びたいぐらいですよ。鈴原さんのこと、“柚奈姉さん”って呼ばせてもらってることもあって。…あと外回り中とかじゃなかったら、できれば敬語も無しが良いです。」
「俺もです。『桜葉さん』なんて…。ホント、“くん呼び”でお願いします。俺も、できれば敬語も無しでお願いしたいです。」
「コラ。観月、桜葉、2人とも打ち解けたいのは分かるが、2人で一気に勢いよく喋るな。姫野さんが困ってる。『取引先の人間と話す時の間を意識しろ。』って日頃から言ってるだろ。勢いよく喋られると圧倒される感じがして不快になる人間も居るから。……すまない、姫野さん。2人とも悪気は全く無い。それは分かってやってくれ。」
少しばかり勢いよく、私に意思を伝えてくれる2人を宥めてくれたのは本条課長だった。
「大丈夫ですよ、課長。分かってます。……お2人が望むなら、課内は“くん呼び”の敬語無しで。あとは臨機応変に。それと私の呼び方…いいよ、“雅姉さん”でも。だけど、外では本当に気をつけてね。…あと、でも。“淑女”はやめてほしいなー。」
「分かりました。…やった!これからよろしくお願いします。“雅姉さん”。」
ハイタッチをしながら、「やった!」と言って2人が私に向けてきた笑顔は屈託のない…キラキラした笑顔だった。
なんて純粋な笑顔なんだろう。
2人につられて…私も満面の笑みで、30度の角度でお辞儀した。
「こちらこそ。よろしくお願いします。観月くん、桜葉くん。」
この瞬間、私は"仕事中に久しぶりに心から笑ったな。"と思った。
「悪い、観月。場所変わる。」
「いいですよ、課長。まだ作業中じゃないですか。…今日は姫野さんのことで俺も事前に何かやることがあればと思って、早く来ただけですし。」
「お前な、バカ正直すぎるだろ。…朝弱いの、相変わらずか?…お前、もう社会人3年目じゃねぇか。しっかりしろよ。」
「えー。だって眠いんですって。それに習慣なんて…そんな簡単に変えられませんって。」
「いや、それにしたって“シュウ”は寝すぎ。泊まりに行っても放っておくと、昼まで平気で寝てるんだし。…“シュウのお母さん”、困ってたし。」
「今、“母さん”の話…要る?」
なに、この微笑ましいやり取り。
本条課長、2人のこと…すごく可愛がってるみたい。
それに。観月くん、朝…苦手なのね。
そんなことを考えていると――。
「おはようございます。…はは、相変わらず部長と課長と先輩たち来るの早すぎませんか?」
そう言った津田くんに対して本条課長が「津田、そんなことないぞ?観月はギリギリになることも多い。」と言い、「やめて下さいよ〜。課長〜!」とノリ良く返していた。
「おはようございます。……あっ。朝日奈課長。今日はまだ本条課長たちと一緒だったんですね。……姫野さん、今日からね。よろしくお願いします。分からないことあったら遠慮なく聞いてね。」
津田くんの後ろに続くように、立花さんも入ってきた。
立花さんのこの反応…なるほどねー。ふふっ。
「おはようございます、立花さん。そうだね、本条課長たちと喋ってたよ。」
朝日奈課長もニコニコしてるし、満更でもなさそう。
それから皆さん続々と出勤し、8時30分の就業時間に時刻になると同時に朝礼が始まる。
「はい。新入社員の皆さん、異動でこの〔開発営業部〕に来た方、初めまして。部長の鳴海 新一です。よろしくお願いします。……さぁ、今日から新年度。今年度も日々は仕事に精を出し、社内行事やプライベートではしっかり羽を伸ばすように。…とは言っても、社内行事の幹事さんは大変だから、嫌がる人多いかもしれないけど。メリハリ大事だから、仕事しすぎな人たちはやり過ぎないように。特に"仕事人間"って言われがちの人は気をつけて。…ね、本条くん?」
「あはは。」
部長自ら冗談っぽく言うことによって笑いを誘い、“新人さん”たちの緊張が解けるようにしてくれているのが見て取れる。
「…私にそれを振りますか?部長。分かりました、肝に銘じます。」
本条課長は「俺かよ!」と言いたげな、バツの悪そうな表情で部長からの言葉を受け取るも…一瞬にして上手い切り返しを探し答えていた。
そして、それがもう一つ笑いを誘っていた。
「それじゃ、ニューフェイスに挨拶と自己紹介してもらうから…各課の課長は上手に指名と前振りしてあげてね。」
「はい。私は〔営業第1課〕課長の本条 昴です。それでは、うちの姫野さんから順番に進めていこうか…どうぞ。」
「はい。本条課長よりご紹介いただきました、姫野 雅と申します。以前は〔経営部 秘書課〕でお仕事させていただいておりましたが、本日よりこちらでお世話になります。不慣れで至らないことがあると思いますが、どうぞよろしくお願い致します。」
私は、30度の角度で頭を下げた。
「じゃあ、そのまま。津田。」
「はい、津田 護です。これから頑張って仕事を覚えていきたいと思います!先輩方にご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします。」
そこから〔営業第2課〕、〔3課〕と続き…〔開発課〕の人も合わせると計12人が、〔開発営業部〕に新しく在籍することになった…と明らかになった。
ちなみに〔開発課〕に配属された6人は、この〔本部棟〕ではなく…すぐ隣の〔生産・資料棟〕が主な活躍場所になる。〔開発課〕は、そちら側のビルなのだ。
「ということで。あとは各課の課長や自分の指導係に業務の流れ聞いて、業務を開始して下さい。これで朝礼を終了します、解散。」
鳴海部長の一声で朝礼は終わり、間を置かず本条課長に私と津田くんは呼ばれた。
「おはようございます。“観月さん”、“桜葉さん”。そうです、初期化作業。」
午前8時10分――。
〔営業〕の“若き2トップ”がご到着のようだ。
「やめて下さいよ、『観月さん』なんて…。確かに〔営業1課〕では俺の方が先輩ですけど、勤続年数的には姫野さんの方が長いんですから。せめて『観月くん』って呼んで下さい。むしろ、俺の方が“雅姉さん”って呼びたいぐらいですよ。鈴原さんのこと、“柚奈姉さん”って呼ばせてもらってることもあって。…あと外回り中とかじゃなかったら、できれば敬語も無しが良いです。」
「俺もです。『桜葉さん』なんて…。ホント、“くん呼び”でお願いします。俺も、できれば敬語も無しでお願いしたいです。」
「コラ。観月、桜葉、2人とも打ち解けたいのは分かるが、2人で一気に勢いよく喋るな。姫野さんが困ってる。『取引先の人間と話す時の間を意識しろ。』って日頃から言ってるだろ。勢いよく喋られると圧倒される感じがして不快になる人間も居るから。……すまない、姫野さん。2人とも悪気は全く無い。それは分かってやってくれ。」
少しばかり勢いよく、私に意思を伝えてくれる2人を宥めてくれたのは本条課長だった。
「大丈夫ですよ、課長。分かってます。……お2人が望むなら、課内は“くん呼び”の敬語無しで。あとは臨機応変に。それと私の呼び方…いいよ、“雅姉さん”でも。だけど、外では本当に気をつけてね。…あと、でも。“淑女”はやめてほしいなー。」
「分かりました。…やった!これからよろしくお願いします。“雅姉さん”。」
ハイタッチをしながら、「やった!」と言って2人が私に向けてきた笑顔は屈託のない…キラキラした笑顔だった。
なんて純粋な笑顔なんだろう。
2人につられて…私も満面の笑みで、30度の角度でお辞儀した。
「こちらこそ。よろしくお願いします。観月くん、桜葉くん。」
この瞬間、私は"仕事中に久しぶりに心から笑ったな。"と思った。
「悪い、観月。場所変わる。」
「いいですよ、課長。まだ作業中じゃないですか。…今日は姫野さんのことで俺も事前に何かやることがあればと思って、早く来ただけですし。」
「お前な、バカ正直すぎるだろ。…朝弱いの、相変わらずか?…お前、もう社会人3年目じゃねぇか。しっかりしろよ。」
「えー。だって眠いんですって。それに習慣なんて…そんな簡単に変えられませんって。」
「いや、それにしたって“シュウ”は寝すぎ。泊まりに行っても放っておくと、昼まで平気で寝てるんだし。…“シュウのお母さん”、困ってたし。」
「今、“母さん”の話…要る?」
なに、この微笑ましいやり取り。
本条課長、2人のこと…すごく可愛がってるみたい。
それに。観月くん、朝…苦手なのね。
そんなことを考えていると――。
「おはようございます。…はは、相変わらず部長と課長と先輩たち来るの早すぎませんか?」
そう言った津田くんに対して本条課長が「津田、そんなことないぞ?観月はギリギリになることも多い。」と言い、「やめて下さいよ〜。課長〜!」とノリ良く返していた。
「おはようございます。……あっ。朝日奈課長。今日はまだ本条課長たちと一緒だったんですね。……姫野さん、今日からね。よろしくお願いします。分からないことあったら遠慮なく聞いてね。」
津田くんの後ろに続くように、立花さんも入ってきた。
立花さんのこの反応…なるほどねー。ふふっ。
「おはようございます、立花さん。そうだね、本条課長たちと喋ってたよ。」
朝日奈課長もニコニコしてるし、満更でもなさそう。
それから皆さん続々と出勤し、8時30分の就業時間に時刻になると同時に朝礼が始まる。
「はい。新入社員の皆さん、異動でこの〔開発営業部〕に来た方、初めまして。部長の鳴海 新一です。よろしくお願いします。……さぁ、今日から新年度。今年度も日々は仕事に精を出し、社内行事やプライベートではしっかり羽を伸ばすように。…とは言っても、社内行事の幹事さんは大変だから、嫌がる人多いかもしれないけど。メリハリ大事だから、仕事しすぎな人たちはやり過ぎないように。特に"仕事人間"って言われがちの人は気をつけて。…ね、本条くん?」
「あはは。」
部長自ら冗談っぽく言うことによって笑いを誘い、“新人さん”たちの緊張が解けるようにしてくれているのが見て取れる。
「…私にそれを振りますか?部長。分かりました、肝に銘じます。」
本条課長は「俺かよ!」と言いたげな、バツの悪そうな表情で部長からの言葉を受け取るも…一瞬にして上手い切り返しを探し答えていた。
そして、それがもう一つ笑いを誘っていた。
「それじゃ、ニューフェイスに挨拶と自己紹介してもらうから…各課の課長は上手に指名と前振りしてあげてね。」
「はい。私は〔営業第1課〕課長の本条 昴です。それでは、うちの姫野さんから順番に進めていこうか…どうぞ。」
「はい。本条課長よりご紹介いただきました、姫野 雅と申します。以前は〔経営部 秘書課〕でお仕事させていただいておりましたが、本日よりこちらでお世話になります。不慣れで至らないことがあると思いますが、どうぞよろしくお願い致します。」
私は、30度の角度で頭を下げた。
「じゃあ、そのまま。津田。」
「はい、津田 護です。これから頑張って仕事を覚えていきたいと思います!先輩方にご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします。」
そこから〔営業第2課〕、〔3課〕と続き…〔開発課〕の人も合わせると計12人が、〔開発営業部〕に新しく在籍することになった…と明らかになった。
ちなみに〔開発課〕に配属された6人は、この〔本部棟〕ではなく…すぐ隣の〔生産・資料棟〕が主な活躍場所になる。〔開発課〕は、そちら側のビルなのだ。
「ということで。あとは各課の課長や自分の指導係に業務の流れ聞いて、業務を開始して下さい。これで朝礼を終了します、解散。」
鳴海部長の一声で朝礼は終わり、間を置かず本条課長に私と津田くんは呼ばれた。