男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
8th Data "営業1課"の洗礼 ◆昴 side◆
さて。それじゃ、姫野さんと津田の…"お手並み拝見"といこうか…。
「…っていうか。これ、俺らの時より…量多くね?樹。」
「多いね。」
「課長、鬼すぎでしょー。」
「おーい。観月。全部聞こえてるぞー。」
観月がふざけた口調で呟いた言葉を、逃さずしっかり拾ってやる。
「そっか…。これで多いのね。秘書課はもっと量あったから…。【飴と鞭】の飴しか貰ってない感じだから、"こんな量で良いの?"って思うくらいよ。」
フッ。…だろうな。
「秘書課って、そんなに忙しいんですね。」
【忙しい】の種類が違うよ、桜葉。
「忙しいと言えば忙しいけど…。なんていうか。気の張りどころ、気の遣いどころが違うのよ。事務処理の内容は営業とさほど変わらないよ。ただ、相手にするのが重役だし…【重要書類】だからね。ここで扱う書類よりさらに神経は尖らせてたかな。」
「あー。ピリピリする感じだ…たぶん。」
「そうそう、桜葉くん。…さてと!捌いていきますか。」
コミュニケーションも取れてるようだし…。今のところ、順調だな。
「まもるー。とりあえず…この事務処理の作業時間、計るよー。」
「えっ。やっぱり本当に計るんですか!?…桜葉先輩。」
「課長もホントに鬼だよなー。津田も、姫野さんも泣かなきゃいいけどな…。姫野さんなんて、女性だし…PCの使い方すら分かってるかどうか…。」
「田中、うるさい。元常務秘書の姫野さんが【PCの使い方すら分からない】なんてこと…あるわけがない。うちの重役は激務だ、その情報を一つ一つ手帳に書いてアナログ式で管理するなんて非効率にもほどがある。それに、常務が機械音痴なのは社内では有名な話だ。そう考えるとスケジュール管理しているのは姫野さんだということに…必然的に気づかないか?田中、お前が内勤メインの"Fチーム"に4年も居る理由をそろそろ考えてみたらどうだ?」
フッ。ありがとう…工藤。
「津田くん、周りは気にしちゃダメよー。」
はは!さすがたな、姫野さん。
「はーい!周りの嫌味は気にしないよ、護くん。……課長命令だからね。やるよ。よーい、スタート。」
津田は【技量テスト】始めたか、よしよし。
「工藤さん、ありがとうございます。さすが営業成績上位の方ですね。鳴海部長から営業成績の通達を受ける時、常に工藤さんのお名前を聞いていましたし…"Bチーム"に在籍というのも納得です。」
「そんな…。こちらこそありがとうございます。さすがは秘書経験のある方だ。しっかりと【情報】と【状況】を把握されてる。…本条課長が引っ張ってきたかったわけですね。」
俺は、使えない人材なんか…引き抜いて来ねぇよ。
ましてや、上層部からなんて…余計にな。
「……あー。そっか。〔秘書課〕出てくる時に整理しちゃったから今無いんだ。うーん。どうしようかな…。」
「“雅姉さん”、何か…要ります?」
「…ん?あぁ。観月くん、ありがとう。気にしてくれて…。付箋が欲しくて…。」
付箋? 何をするんだ?
まぁ、何となく見当は付くがな…。俺のところには…あったか?
俺は"Aチーム"の話に耳を傾けつつ、自分のデスクに付箋が無いか…引き出しを漁ってみる。
「付箋?…んー。ちょっと待ってね。どれぐらい必要?」
「立花さん…。10枚くらいですね。」
そう言ったのは、"Bチーム"の立花 静香…27歳。身長はおそらく150cm後半だろう。色白で、スッと鼻筋の通った端正な顔立ちは姫野さんと同じく【クールビューティー】の印象を受けるが、本人は喜ばしくないらしい。
「【綺麗】より【可愛い】って言われたい!」と、彼女が繰り返し言っているのを耳にする。
モカブラウン色のミディアムボブヘアは、そんな彼女の願望を叶えるかのように【綺麗】と【可愛い】の両方を印象付けさせる。
変に女々しくなく、どちらかと言えばサバサバした性格の彼女は〔開発営業部〕では珍しく…鈴原と並び“俺に意見を言ってきてくれる数少ない女性”であり、"姫野さんとも合うんじゃないか"と…“俺自身が信頼を置いている人”である。
そんな【面倒見の良い姉御肌】な立花さんだが、意中の相手…蛍の前では“女の顔”を見せているあたり、微笑ましく思う。
「あー。そうだ、私も切らしてるわ。ごめんなさい、お役に立てなくて…。」
「いえ。ありがとうございます、立花さん。」
姫野さんに、申し訳なさそうに謝っている立花さん。
「俺のところにも、今は無いな…。」
「うそ~!?課長も探してる…。」
「課長、付箋ですか~?…私、買ってきましょうかぁ?」
「芹沢さん、ありがとう。気持ちだけいただいておきます。あなたは付箋を買いに行くよりも先にやるべき業務があるはずです。他のチームの世話を焼くより、まずは柏木リーダーの指示をしっかり聞いて業務に当たれるようになりましょう。……フッ。立花さん、そんなに驚くことか?…姫野さんはうちのチームの人間だし、気に掛けるのは普通だろ。」
「ふふっ、そうですね。失礼しました、本条課長。」
芹沢、俺を落としたいなら…仕事を真面目にして“バカな女”は卒業しろ。
俺は、お前みたいなタイプが一番嫌いだよ。
立花さん、そのクスクス笑うのをやめてくれないか?
確かに。オフィスで俺が女に優しいのは珍しいし、そんな俺をからかうのは面白いだろうが…。
「姫野さん。待たせた…すまない。付箋なら〔部長室〕…鈴原さんのところには確実にあると思うが…。」
「いえ、お気になさらず。すごいですね!本条課長、皆さんのお話を漏らすことなく聞いてるなんて。……あっ!そうだ、『付箋といえば鈴原さん。』でした!〔部長室〕…行ってきます。課長。業務を滞らせてしまって申し訳ありません。戻ったら直ちに取り掛かります!」
「別にすごくはないだろ。慣れだ、慣れ。……あぁ、行ってきなさい、戻ってきたら頼むな。」
…あなたって人は。 まったく、なんて人だ…。
全員、一瞬ザワついたし。
仕事を適当にやってる奴も居る中で、「業務を滞らせている。」って謝罪してくるなんて…初めてだよ。そんな人…。
やっぱり、俺の目に狂いはなかったな。
しかしまぁ…。姫野さんは、本当に真面目な人だ…。
あの、[上層部会議]の翌日から引き継ぎの都合もあって〔営業1課〕に来てもらったりしていたが、真面目すぎて…完璧にこなそうとする。
心配なんだが……。
引き継ぎ期間中…彼女には申し訳なかったが、俺の机と少し距離を空けて会議机を置いてそこで過去の営業成績など諸々の資料の整理整頓をしてもらっていた。
業務監査や新規の企業顧客を開拓をする際、過去のデータを持って訪問したり…営業担当者との顔合わせを終えて帰社した後に、担当者の商談の癖なども含めて戦略を立てるのだが…その時に過去のデータを引っ張り出し、活用することがある。
だから資料が整理整頓されていると助かるのだが…誰もやりたがらなかった。俺がやってもいたが、探しやすいかどうかまで考えられる余裕は無く…仕分けるだけで手一杯だったのだ。
そんな状況だったのだが、彼女はそういった雑務を嫌な顔ひとつせずやってくれたし、見やすいようにレイアウトの変更などもやってくれたのだ。
その様子を、今と同じように何度か見ている中で…キリが良いところまでは止めないことから"完璧主義なんだろうな"という印象が…俺の中で今までより、いっそう強くなった。
姫野さんには【ほどよく手を抜くこと】をどうにか教えなきゃならないらしい。
そして、彼女は大抵の業務を1人で効率的にこなせてしまうが 故に…他人の手をあまり借りようとしないことが分かってきた。
まぁ。俺には〈PTSD〉の関係もあって、他人を信用しきれていないのだろうと理解できるが…。
これはこれで、大きな問題だ。業務量が多くなればなるほど、1人でこなすのは無理が出てくる。
だからこそのチーム体制だ、今日から徐々に変えていってくれればいいが…。
それに、無理は体にも良くない。
彼女は【追い込まれる】ことや【悪い緊張感が走る場】が苦手にもかかわらず、自分で自分を追い込んでいることがある。
あれは無自覚か…。
[上層部会議]後の【話し合い】の時のように無理はさせたくない。
「…っていうか。これ、俺らの時より…量多くね?樹。」
「多いね。」
「課長、鬼すぎでしょー。」
「おーい。観月。全部聞こえてるぞー。」
観月がふざけた口調で呟いた言葉を、逃さずしっかり拾ってやる。
「そっか…。これで多いのね。秘書課はもっと量あったから…。【飴と鞭】の飴しか貰ってない感じだから、"こんな量で良いの?"って思うくらいよ。」
フッ。…だろうな。
「秘書課って、そんなに忙しいんですね。」
【忙しい】の種類が違うよ、桜葉。
「忙しいと言えば忙しいけど…。なんていうか。気の張りどころ、気の遣いどころが違うのよ。事務処理の内容は営業とさほど変わらないよ。ただ、相手にするのが重役だし…【重要書類】だからね。ここで扱う書類よりさらに神経は尖らせてたかな。」
「あー。ピリピリする感じだ…たぶん。」
「そうそう、桜葉くん。…さてと!捌いていきますか。」
コミュニケーションも取れてるようだし…。今のところ、順調だな。
「まもるー。とりあえず…この事務処理の作業時間、計るよー。」
「えっ。やっぱり本当に計るんですか!?…桜葉先輩。」
「課長もホントに鬼だよなー。津田も、姫野さんも泣かなきゃいいけどな…。姫野さんなんて、女性だし…PCの使い方すら分かってるかどうか…。」
「田中、うるさい。元常務秘書の姫野さんが【PCの使い方すら分からない】なんてこと…あるわけがない。うちの重役は激務だ、その情報を一つ一つ手帳に書いてアナログ式で管理するなんて非効率にもほどがある。それに、常務が機械音痴なのは社内では有名な話だ。そう考えるとスケジュール管理しているのは姫野さんだということに…必然的に気づかないか?田中、お前が内勤メインの"Fチーム"に4年も居る理由をそろそろ考えてみたらどうだ?」
フッ。ありがとう…工藤。
「津田くん、周りは気にしちゃダメよー。」
はは!さすがたな、姫野さん。
「はーい!周りの嫌味は気にしないよ、護くん。……課長命令だからね。やるよ。よーい、スタート。」
津田は【技量テスト】始めたか、よしよし。
「工藤さん、ありがとうございます。さすが営業成績上位の方ですね。鳴海部長から営業成績の通達を受ける時、常に工藤さんのお名前を聞いていましたし…"Bチーム"に在籍というのも納得です。」
「そんな…。こちらこそありがとうございます。さすがは秘書経験のある方だ。しっかりと【情報】と【状況】を把握されてる。…本条課長が引っ張ってきたかったわけですね。」
俺は、使えない人材なんか…引き抜いて来ねぇよ。
ましてや、上層部からなんて…余計にな。
「……あー。そっか。〔秘書課〕出てくる時に整理しちゃったから今無いんだ。うーん。どうしようかな…。」
「“雅姉さん”、何か…要ります?」
「…ん?あぁ。観月くん、ありがとう。気にしてくれて…。付箋が欲しくて…。」
付箋? 何をするんだ?
まぁ、何となく見当は付くがな…。俺のところには…あったか?
俺は"Aチーム"の話に耳を傾けつつ、自分のデスクに付箋が無いか…引き出しを漁ってみる。
「付箋?…んー。ちょっと待ってね。どれぐらい必要?」
「立花さん…。10枚くらいですね。」
そう言ったのは、"Bチーム"の立花 静香…27歳。身長はおそらく150cm後半だろう。色白で、スッと鼻筋の通った端正な顔立ちは姫野さんと同じく【クールビューティー】の印象を受けるが、本人は喜ばしくないらしい。
「【綺麗】より【可愛い】って言われたい!」と、彼女が繰り返し言っているのを耳にする。
モカブラウン色のミディアムボブヘアは、そんな彼女の願望を叶えるかのように【綺麗】と【可愛い】の両方を印象付けさせる。
変に女々しくなく、どちらかと言えばサバサバした性格の彼女は〔開発営業部〕では珍しく…鈴原と並び“俺に意見を言ってきてくれる数少ない女性”であり、"姫野さんとも合うんじゃないか"と…“俺自身が信頼を置いている人”である。
そんな【面倒見の良い姉御肌】な立花さんだが、意中の相手…蛍の前では“女の顔”を見せているあたり、微笑ましく思う。
「あー。そうだ、私も切らしてるわ。ごめんなさい、お役に立てなくて…。」
「いえ。ありがとうございます、立花さん。」
姫野さんに、申し訳なさそうに謝っている立花さん。
「俺のところにも、今は無いな…。」
「うそ~!?課長も探してる…。」
「課長、付箋ですか~?…私、買ってきましょうかぁ?」
「芹沢さん、ありがとう。気持ちだけいただいておきます。あなたは付箋を買いに行くよりも先にやるべき業務があるはずです。他のチームの世話を焼くより、まずは柏木リーダーの指示をしっかり聞いて業務に当たれるようになりましょう。……フッ。立花さん、そんなに驚くことか?…姫野さんはうちのチームの人間だし、気に掛けるのは普通だろ。」
「ふふっ、そうですね。失礼しました、本条課長。」
芹沢、俺を落としたいなら…仕事を真面目にして“バカな女”は卒業しろ。
俺は、お前みたいなタイプが一番嫌いだよ。
立花さん、そのクスクス笑うのをやめてくれないか?
確かに。オフィスで俺が女に優しいのは珍しいし、そんな俺をからかうのは面白いだろうが…。
「姫野さん。待たせた…すまない。付箋なら〔部長室〕…鈴原さんのところには確実にあると思うが…。」
「いえ、お気になさらず。すごいですね!本条課長、皆さんのお話を漏らすことなく聞いてるなんて。……あっ!そうだ、『付箋といえば鈴原さん。』でした!〔部長室〕…行ってきます。課長。業務を滞らせてしまって申し訳ありません。戻ったら直ちに取り掛かります!」
「別にすごくはないだろ。慣れだ、慣れ。……あぁ、行ってきなさい、戻ってきたら頼むな。」
…あなたって人は。 まったく、なんて人だ…。
全員、一瞬ザワついたし。
仕事を適当にやってる奴も居る中で、「業務を滞らせている。」って謝罪してくるなんて…初めてだよ。そんな人…。
やっぱり、俺の目に狂いはなかったな。
しかしまぁ…。姫野さんは、本当に真面目な人だ…。
あの、[上層部会議]の翌日から引き継ぎの都合もあって〔営業1課〕に来てもらったりしていたが、真面目すぎて…完璧にこなそうとする。
心配なんだが……。
引き継ぎ期間中…彼女には申し訳なかったが、俺の机と少し距離を空けて会議机を置いてそこで過去の営業成績など諸々の資料の整理整頓をしてもらっていた。
業務監査や新規の企業顧客を開拓をする際、過去のデータを持って訪問したり…営業担当者との顔合わせを終えて帰社した後に、担当者の商談の癖なども含めて戦略を立てるのだが…その時に過去のデータを引っ張り出し、活用することがある。
だから資料が整理整頓されていると助かるのだが…誰もやりたがらなかった。俺がやってもいたが、探しやすいかどうかまで考えられる余裕は無く…仕分けるだけで手一杯だったのだ。
そんな状況だったのだが、彼女はそういった雑務を嫌な顔ひとつせずやってくれたし、見やすいようにレイアウトの変更などもやってくれたのだ。
その様子を、今と同じように何度か見ている中で…キリが良いところまでは止めないことから"完璧主義なんだろうな"という印象が…俺の中で今までより、いっそう強くなった。
姫野さんには【ほどよく手を抜くこと】をどうにか教えなきゃならないらしい。
そして、彼女は大抵の業務を1人で効率的にこなせてしまうが 故に…他人の手をあまり借りようとしないことが分かってきた。
まぁ。俺には〈PTSD〉の関係もあって、他人を信用しきれていないのだろうと理解できるが…。
これはこれで、大きな問題だ。業務量が多くなればなるほど、1人でこなすのは無理が出てくる。
だからこそのチーム体制だ、今日から徐々に変えていってくれればいいが…。
それに、無理は体にも良くない。
彼女は【追い込まれる】ことや【悪い緊張感が走る場】が苦手にもかかわらず、自分で自分を追い込んでいることがある。
あれは無自覚か…。
[上層部会議]後の【話し合い】の時のように無理はさせたくない。