男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
「{そうね。良かったわ、昴がそこまで見えてて分かってるなら。やっぱり雅ちゃんの心配は杞憂だったわね。『課長に“変な女”って思われてたらどうしよう、先生。』ってすごく心配してたのよ?だから『心理的に圧がかかっていたのは“課長さん”も察知してると思うから、“変な女”とは思ってないわ。』って言っておいたけど…。}」
そんな心配は要らないんだがな。
「そうなのか?…はは。それはサンキュー。…しかしまぁ。完全に取り越し苦労だが、姫野さんらしいな。」
「{ねぇ、昴…。}」
「…ん?」
「{……やっぱり、何でもないわ。…さて、じゃあ本題。“雅ちゃんに選ばれしメンバー”で【飲み会】しようって話なんでしょ?…〈PTSD〉を打ち明けるための…。}」
"何でもない"…わけがない。こんな含みのある言い方。
気づいたんだろ? 俺が姫野さんに惚れてることに。
まぁ。分かったところで詮索してこないのが姉さんらしいけど。
ホント…姉さんと花純には、何年経っても敵わないな。
「フッ、“選ばれしメンバー”ってなんだよ。まぁ、いいけど。ククッ。」
「{笑いすぎじゃない?…まぁ、いいけど。…それで?実際どうなのよ。彼女が挙げてる人たちって…あんたから見て。口堅いの?信用できる?}」
「人選は全く問題ない。さすがは姫野さんって感じだった。良い勘してるよ。俺からも太鼓判押してやれる連中ばっかりだ。」
「{そう。それなら、まぁ良いかな。}」
「なぁ、姉さん。むしろ、俺は話のタイミングの方が気になるよ。本当に打ち明けるタイミング、"今"で良いと思うか?」
「{打ち明けるのは、もちろん"今"で良いわ。むしろ"今"よ。本人が覚悟決めて、あんたに『協力してほしい。』って申し出たんだから。本人の気持ちがプラスの方向に向いてる時を逃しちゃダメ!人って、不思議なもので…環境が好転すると飛躍するの。もちろん、失敗することから得るものもある。だけど、それが続きすぎたら自信を失くしていく。}」
「あぁ。」
「{自信を失くしすぎてる人には、1回の失敗から学ばせるより…3回の成功体験で自信をつけさせなさい。それプラス、べた褒めして労いなさい。それが積み重ったら、勝手に自信はついてくる。……だから。良いのよ、"今"で。}」
さすがは姉さん、言葉が重いな。説得力が桁違いだ。
「{問題は、疾患への正しい理解と対処法の伝授。…私が"その場"にお邪魔するか、PC使ってリモートか。}」
「…えっ、来るのか?…夜だし、響と花純のこともあるだろ?」
「昴、まだ『行く。』とは言ってないわよ。でも行ける状況が作れるなら、直接説明してあげたいとは思ってるわ。間違って理解してほしくないの。せっかく雅ちゃんが、"理解してもらおう、前に進まなきゃ!"って頑張ってるから。ここで理解されないってことになったら…今度こそ心閉ざしちゃって、誰とも関われなくなる。それだけは絶対に避けたいわ。……奏士くんに相談してみるから、2日ぐらい時間くれる?」
「あぁ、もちろん。…だけど、“アイツら”にはどうやって…。」
本当にいいのか?
義兄さんが良くても、子供たちが嫌だろう…。
「{1時間半ぐらいあれば説明は終わるから、奏士くんが協力してくれれば大丈夫。“あの子たち”には『雅お姉ちゃんがピンチだからママが助けに行ってくるわね!』って言えば『雅お姉ちゃん、ピンチなの!?助けてあげなきゃ!ママ、行ってあげて!』って言ってくれると思うわよ。… “あの子たち”は、あんたと雅ちゃんのこと大好きだから。…それがダメならリモートで考えましょ。}」
【雅お姉ちゃんのピンチ】か…。
日曜日に放送してる“ヒーローもの”に例えて言ってるあたり、さすが母親。
「ずいぶん懐いてるな、2人とも。」
「{花純はやっぱり女の子だわ、『雅お姉ちゃんとお話するの好きー!』ってよく言ってる。スイーツの話とかしてるみたいよ。…響は、『困ってたら助けてあげるんだ。パパと“すばる兄”が、困ってる人が居たら助けてあげるんだ…みんな大切だけど、女の人には特に優しくしなさいって言ってた!』って、奏士くんや、あんたとの約束守ってるわよー。}」
「そうか。響が…。」
「{えぇ。……それで話戻すけど。私が行くにしてもリモートにするにしても、無関係な赤の他人は同じ空間に居たら困るから【貸切】が必須条件ね。}」
「【貸切】か…。そう言われれば、そうだった。〈PTSD〉のことを他人に聞かれるのは…よろしくないな。だが、金曜の夜に【貸切】にさせてくれる店なんて…。」
「{そう言い出す気がしたわ。金曜なら、1軒…融通効かせてくれそうなお店知ってるわよ。私と奏士くんの行きつけのジャズバーだけど。…行く日、【貸切】の予約できるか聞いといてあげようか?…私の都合で申し訳ないけど、今週だと急だから来週で良い?雅ちゃんにはOKもらってるわ。}」
「あぁ。じゃあ、頼むよ。ジャズバー?どこだよ?」
“ジャズ好きの俺”が、[まだ行けてないジャズバー]なんて…あるか?
「{あんたの会社からメトロの新宿駅に行くまでの間に[infini]ってお店あるの知らない?あそこよ。」
「あー。あそこか…って、え?あそこ、やってんのかよ!いつやってんだ?仕事帰りに寄ろうと思うと、いつも閉まってんだけど…。」
「{ふふっ、やっぱりチェックはしてたんだ。さすが。あそこ…月~木はマスターの本業が"そこそこ"忙しくてやってないからね。月~木は休業。金は"気まぐれ"で開けて、土日祝は営業してるわ。}」
「そりゃあ、見てはいるだろ…。だいたい、俺のジャズ好きは姉さんの影響だよ。…なるほど、だから合わなかったわけか。マスターの本業、何なんだ?…金曜の"気まぐれ営業"も、よく分からないが…。」
金曜は気まぐれで店開けんのかよ。何者だよ、マスターは。
「{金曜午前の診療が長引かない時は、お店開けてんじゃない?…中瀬 律、[中瀬メンタルクリニック]院長。“街のお医者さん”としては信頼抜群よ。…まぁ、同じ医学部卒で同い年の友達ってとこかしらね。}」
「なるほど、マスターの本業もドクターってわけか。ようやく繋がったよ。しかも姉さんと顔見知りっていうなら、俺が安心だ。店に着いてからのやり取りとか。」
「{そうね。…まぁ。律くんには予約できるか聞いた時に、話通しておいてあげるから心配要らないわ。}」
「助かるよ、姉さん。ありがとう。」
姫野さんのことと【飲み会】のことを話していたら、いつの間にか30分弱経過していて――。
姉さんが「9時ね。響と花純…寝かせてくるわ。ごめん、最後に慌ただしくなって。また連絡するわ。」と締めの一言を口にしたから、それを合図に通話を終えた。
そんな心配は要らないんだがな。
「そうなのか?…はは。それはサンキュー。…しかしまぁ。完全に取り越し苦労だが、姫野さんらしいな。」
「{ねぇ、昴…。}」
「…ん?」
「{……やっぱり、何でもないわ。…さて、じゃあ本題。“雅ちゃんに選ばれしメンバー”で【飲み会】しようって話なんでしょ?…〈PTSD〉を打ち明けるための…。}」
"何でもない"…わけがない。こんな含みのある言い方。
気づいたんだろ? 俺が姫野さんに惚れてることに。
まぁ。分かったところで詮索してこないのが姉さんらしいけど。
ホント…姉さんと花純には、何年経っても敵わないな。
「フッ、“選ばれしメンバー”ってなんだよ。まぁ、いいけど。ククッ。」
「{笑いすぎじゃない?…まぁ、いいけど。…それで?実際どうなのよ。彼女が挙げてる人たちって…あんたから見て。口堅いの?信用できる?}」
「人選は全く問題ない。さすがは姫野さんって感じだった。良い勘してるよ。俺からも太鼓判押してやれる連中ばっかりだ。」
「{そう。それなら、まぁ良いかな。}」
「なぁ、姉さん。むしろ、俺は話のタイミングの方が気になるよ。本当に打ち明けるタイミング、"今"で良いと思うか?」
「{打ち明けるのは、もちろん"今"で良いわ。むしろ"今"よ。本人が覚悟決めて、あんたに『協力してほしい。』って申し出たんだから。本人の気持ちがプラスの方向に向いてる時を逃しちゃダメ!人って、不思議なもので…環境が好転すると飛躍するの。もちろん、失敗することから得るものもある。だけど、それが続きすぎたら自信を失くしていく。}」
「あぁ。」
「{自信を失くしすぎてる人には、1回の失敗から学ばせるより…3回の成功体験で自信をつけさせなさい。それプラス、べた褒めして労いなさい。それが積み重ったら、勝手に自信はついてくる。……だから。良いのよ、"今"で。}」
さすがは姉さん、言葉が重いな。説得力が桁違いだ。
「{問題は、疾患への正しい理解と対処法の伝授。…私が"その場"にお邪魔するか、PC使ってリモートか。}」
「…えっ、来るのか?…夜だし、響と花純のこともあるだろ?」
「昴、まだ『行く。』とは言ってないわよ。でも行ける状況が作れるなら、直接説明してあげたいとは思ってるわ。間違って理解してほしくないの。せっかく雅ちゃんが、"理解してもらおう、前に進まなきゃ!"って頑張ってるから。ここで理解されないってことになったら…今度こそ心閉ざしちゃって、誰とも関われなくなる。それだけは絶対に避けたいわ。……奏士くんに相談してみるから、2日ぐらい時間くれる?」
「あぁ、もちろん。…だけど、“アイツら”にはどうやって…。」
本当にいいのか?
義兄さんが良くても、子供たちが嫌だろう…。
「{1時間半ぐらいあれば説明は終わるから、奏士くんが協力してくれれば大丈夫。“あの子たち”には『雅お姉ちゃんがピンチだからママが助けに行ってくるわね!』って言えば『雅お姉ちゃん、ピンチなの!?助けてあげなきゃ!ママ、行ってあげて!』って言ってくれると思うわよ。… “あの子たち”は、あんたと雅ちゃんのこと大好きだから。…それがダメならリモートで考えましょ。}」
【雅お姉ちゃんのピンチ】か…。
日曜日に放送してる“ヒーローもの”に例えて言ってるあたり、さすが母親。
「ずいぶん懐いてるな、2人とも。」
「{花純はやっぱり女の子だわ、『雅お姉ちゃんとお話するの好きー!』ってよく言ってる。スイーツの話とかしてるみたいよ。…響は、『困ってたら助けてあげるんだ。パパと“すばる兄”が、困ってる人が居たら助けてあげるんだ…みんな大切だけど、女の人には特に優しくしなさいって言ってた!』って、奏士くんや、あんたとの約束守ってるわよー。}」
「そうか。響が…。」
「{えぇ。……それで話戻すけど。私が行くにしてもリモートにするにしても、無関係な赤の他人は同じ空間に居たら困るから【貸切】が必須条件ね。}」
「【貸切】か…。そう言われれば、そうだった。〈PTSD〉のことを他人に聞かれるのは…よろしくないな。だが、金曜の夜に【貸切】にさせてくれる店なんて…。」
「{そう言い出す気がしたわ。金曜なら、1軒…融通効かせてくれそうなお店知ってるわよ。私と奏士くんの行きつけのジャズバーだけど。…行く日、【貸切】の予約できるか聞いといてあげようか?…私の都合で申し訳ないけど、今週だと急だから来週で良い?雅ちゃんにはOKもらってるわ。}」
「あぁ。じゃあ、頼むよ。ジャズバー?どこだよ?」
“ジャズ好きの俺”が、[まだ行けてないジャズバー]なんて…あるか?
「{あんたの会社からメトロの新宿駅に行くまでの間に[infini]ってお店あるの知らない?あそこよ。」
「あー。あそこか…って、え?あそこ、やってんのかよ!いつやってんだ?仕事帰りに寄ろうと思うと、いつも閉まってんだけど…。」
「{ふふっ、やっぱりチェックはしてたんだ。さすが。あそこ…月~木はマスターの本業が"そこそこ"忙しくてやってないからね。月~木は休業。金は"気まぐれ"で開けて、土日祝は営業してるわ。}」
「そりゃあ、見てはいるだろ…。だいたい、俺のジャズ好きは姉さんの影響だよ。…なるほど、だから合わなかったわけか。マスターの本業、何なんだ?…金曜の"気まぐれ営業"も、よく分からないが…。」
金曜は気まぐれで店開けんのかよ。何者だよ、マスターは。
「{金曜午前の診療が長引かない時は、お店開けてんじゃない?…中瀬 律、[中瀬メンタルクリニック]院長。“街のお医者さん”としては信頼抜群よ。…まぁ、同じ医学部卒で同い年の友達ってとこかしらね。}」
「なるほど、マスターの本業もドクターってわけか。ようやく繋がったよ。しかも姉さんと顔見知りっていうなら、俺が安心だ。店に着いてからのやり取りとか。」
「{そうね。…まぁ。律くんには予約できるか聞いた時に、話通しておいてあげるから心配要らないわ。}」
「助かるよ、姉さん。ありがとう。」
姫野さんのことと【飲み会】のことを話していたら、いつの間にか30分弱経過していて――。
姉さんが「9時ね。響と花純…寝かせてくるわ。ごめん、最後に慌ただしくなって。また連絡するわ。」と締めの一言を口にしたから、それを合図に通話を終えた。