男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方

13th Data JAZZ BAR[infini]へ ◆昴 side◆

「本条課長が選ぶお店なら、素敵な所に連れて行ってもらえそう。」

「立花さん、それ分かります!なんか鳴海部長とか本条課長って、物知りだし【余裕】感じませんか…【大人の余裕】。」

鈴原、なんか楽しそうだな…。
芹沢ほどではないが、やっぱり女性は恋愛話が好きなもんなんだな。

俺には純粋すぎて逆に【手が出せないタイプ】だが、そういう素直なところが“先輩”は好きなんだろうな…。

しかし……【大人の余裕】ねぇ…。
それは実際…どこから来るんだろうな、自分だと分からないものだから。

「そうね、【大人の余裕】ね…。きっと、あれね。雰囲気が落ち着いてて、知識が豊富で聞き上手だから…お2人に対してそう感じるのかも。…あとミステリアスな部分があるのも大きいかも。」

「あぁ。そうかも、姫野さん。【分からないところがある男ほど女性は惹かれる】っていうこともあるみたいだから…。」

「へぇー。なるほどな、女性はそうやって男を見てるところがあるわけだ。面白いな。……まぁ。俺が、“3人のイメージを壊さない器の男”なら幸いかな。」

「ほら、もうこの返しがカッコイイ。」

そう言いながら何気なく(けい)の方に視線を送ってる立花さんも、恋愛上級者ではあるんだろうな。

ほら。言われてるぞ、「素敵な…雰囲気のあるお店に連れて行ってほしい。」って。
そんなに俺を見て妬いてる暇があるならバーぐらい連れて行ってやれよ、バーカ。

立花さんは…お前と行きたいんだから。
それで、口説き落として【彼女】に昇格させてやれって。
…ったく。“遊びの女”には軽口叩けるくせに、昔っから“本気の女”にはつくづくヘタレだよなー。

「あっ、そうだ!“雅姉さん”。俺もグループのところから…“姉さん”の連絡先…貰っていいですか?」

「“姉さん”、俺も!」

「“姉さん”、僕も!」

おそらく、姫野さんは優しいから「ダメ。」とは言わないだろうが…勢い持て余してるだろ、お前ら。彼女が、男が苦手だってこと…忘れてないよな?

「観月くん、桜葉くん、津田くん。いいよ。いいけど…。質問攻めは嫌かな…たぶん聞きたいことはいっぱいあると思うけど。あと、無理に話を合わせてほしくないかな…。」

「えっと…。」

3人が反応しかけた時、姫野さんが再び口を開いた。

「男性が苦手になる前にお付き合いしてた人たちの中にはね…。付き合う前のアプローチの段階で、私のことを『知りたい、知りたい!』って質問攻めにしてきたり…私の気を引こうとして、翌日から"私が好きだって言ったものの話"しかしなくなった人が居て……。」

例の【事件】の前の出来事か…。
相手も姫野さんと同年代だとすれば、20歳前後――。
その年齢に30代の経験値を求めるなら酷だと思うが、やってることが中学生レベルじゃねぇか。

精神年齢が低い男は、彼女の【対象】じゃないってわけだ。

桜葉は柔軟に対応するだろうが、若干の難があるのは観月か…。頑張れよ、距離感計るの…。

「うわっ。それ、ホント?…引くわー。かなり嫌ね。」

立花さん、リアルな意見ありがとう。

「はい…。」

「確かに、俺もそれは嫌だな…。無理なく自然な会話なら大丈夫です?」

「それなら大丈夫よ、桜葉くん。」

「…“シュウ”はちょっと抑え気味にいかないと、“姉さん”引くかもねー。ノリと勢いで仲良くなるのもアリな時はアリだけど、“姉さん”は嫌みたいだから…。」

ナイスフォロー、桜葉。
俺が観月に言うより、同期のお前が言った方が冗談めかして言えるから…観月も深刻にならずに受け止められるだろうし。

それから。よかったな、姫野さん。
心配してたことを伝えられた上に、分かってもらえて…。

「そうみたいだな、(いつき)。……今までノリで仲良くなった友達多くて、“姉さん”みたいな…それこそ【大人な雰囲気の女の人】にプライベートで関わるの初めてなんです。だから距離感計り間違えることあるかもしれないですけど…頑張るんで嫌いにならないで下さい。」

「ふふっ。安心してよ、観月くん。ガツガツしてなきゃ怖くないから大丈夫。……え?私に【大人の雰囲気】?無いよ。」

いや、待て待て。
あなたで【大人の雰囲気】が無いなんて言ったら、みんな"子供"だよ。

「いや、あるでしょ。フツーに。じゃなきゃ、社内の男がこぞって寄ってこないわよ。……そうだ、姫野さん。私は?私も連絡先、貰っていい?」

「立花さんは、むしろ『こちらこそ、よろしくお願いします!』って感じです。」

「やった。じゃ、これを機に"女子会"とかもやっていけるような仲にまでなれると良いわね。徐々にでも…。」

「はい、ぜひ!」


ほとんど仕事やってねぇ。だけど、まぁ…いいか。

"なんか今日は濃い時間を過ごしてるな。"と思いながら、【就業時間前のひととき】を過ごした。


**


「本条くん、ちょっと良い?」

昼休みに入る15分前に、鳴海部長から呼ばれる。

「部長…はい…。…何かあったら〔部長室〕に居るから呼んでくれ。」

「はい、(かしこ)まりました。本条課長。」

特に誰ということでもなく、俺は居場所を知らせておくためにそう言っただけだったが…姫野さんがちゃんと返事してくれた。それを背中で聞いて首だけ振り向き、会釈を返してから〔部長室〕へ入った。

「鈴原さん。12時になったら、僕たちが打ち合わせ続けててもお昼食べに行っていいから。…じゃ。隣の応接室に居るから、こっちの留守よろしくね。」

「はい、部長。」

鈴原に席を外させたってことは、【プラチナ案件】だな…。

「――というわけだから、よろしくね。もう少し事実確認と調査を進めて協力してもらうことがあれば、またこうやって僕が呼んだり"Platina Call"で招集が掛かると思うから。」

「はい。」

「それはそうと…昴。朝言ってた"アレ"、グループトークへ流さなくていいの?…お前が選んだ店と全員の反応が楽しみなんだけど。女性陣の期待値、高そうだしさ…フフッ。」

"こっち"が【ここに俺を呼んだ本当の理由】だろ!
面白がるために、わざと女性陣と離れさせたな…絶対。

"この手の悪戯(いたずら)"を俺に仕掛けて面白がるなんて…あなたぐらいだし、本っ当【良い趣味】してるぜ。

「そう言われたら…ご期待には応えたいなとは思いますけど、あいにく俺が選んだ店というよりは姉さんが手配進めてくれてるとこなんで…予約が取れたか確認しますね。なので、その間に社内のコンビニで幕の内弁当を買ってきていただけると助かります。もちろん、俺をからかうと高くつくのもご存知でしょうから…奢ってくれますよね?部長?」

「うっ。その輝かしい笑顔、怖いわ…お前。分かった、僕が悪かったよ。…行ってきます。…ホントに高くついたな…。」

最後の呟きまでしっかり聞こえてますよ。


さて。…おっ、連絡きてんじゃん!
さすが姉さん。やること早くて助かるよ、ホントに。

――――
[白石 渚]
来週13日(金)の19時。
私も行けるし、『infini(アンフィニ)』…11人で予約しておいたわよ。
まぁ、貸切にしてくれるとは言ってたけど。
(りつ)くんに、昴と新一くんの名前伝えてある。
「どっちかが先に来ると思う。」って伝えてあるから
当日、どっちかは先に店に行きなさいね。

私は家のことが落ち着いたら、顔出すわ。

あと、ドレスコードまでしなくて良いけど
ジャージやジーンズは、『infini』ではNGよ。
行くメンバーに忘れずに伝えて。
――――
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