男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
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[観月 秋一]
ジャズバー…初めてだけど、何とかなるか…。
良いですよ、そこで。
何か…大人の階段登る感じするな。
ところで、タイミング合わなくて聞きそびれたんですけど…
店の名前ってなんて読むんですか? インフィ…?
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[桜葉 樹]
俺も、そこで良いですよ。
確かに。俺も読めなかったです。
――――

――――
[津田 護]
僕もそこで大丈夫ですけど、酔うかな。(>_<)
鈴原先輩と仲間かも!?(笑)
ホント、"あれ"…なんて読むんですか?
――――

あぁ、そうだった。
読み…書いておくの忘れたな。

――――
[姫野 雅]
観月くん、桜葉くん、津田くん。
【infini】は【アンフィニ】って読むのよ。(^_^)
フランス語で【無限の】って意味ね。
infinity(インフィニティ)】の方が耳馴染みがあると
思うけど、あれは英語ね。
――――

――――
[姫野 雅]
お店にお酒がたくさんあって
【カクテルのバリエーションが"無限に"ある】とか。
楽器が置かれてるジャズバーなら
【出会った人とセッションしたりして楽しみ方が
"無限大"】って意味とか…あるかもしれないね。(^_^)
――――

「フランス語!?…マジですか。“姉さん”…秒で分かってましたよね!?すげぇ!!」

姫野さん、フォローありがとう。
さすが、全国の中でも1,2の外語大卒なだけあるな。

「まぁ。大学で英語とフランス語とドイツ語は取ってたからね。」

「姫野さんって…全国で1,2の外語大、出てるんでしたっけ?」

「全国で2番目とは…一応言われていますね。堤課長。」

「外語大って聞いただけで、"すげぇ!"ってなりますけど… 全国2位のとことか、すごすぎます!」

「ホントに。僕、英語とか苦手でしたもん。」

はは、観月も桜葉も津田も素直だよなー。ホント。

――――
[本条 昴]
よし。じゃあ、場所は『infini』で確定な。
来週4月13日の(金)19時。
服装は気をつけて…各々来るように。
店の住所は、さっき載せたHPのURLから拾ってくれ。
――――

そう送ると、姫野さんを筆頭に「承知しました。」と返信をくれた。
この場に居るから、みんな直接言ってくれても良かったけどな。

――コンコン、ガチャ!

「ただいまー。はい、昴。幕の内と【ブラック】。まぁそれはそれとして、話進みすぎなんだけど。」

部長はそんなことを言いながら、力なく笑っていた。

知らないですよ。……さて、やっと昼飯にありつける。

「ありがとうございます、部長。ご馳走になります。…『早く連絡しろ。』と言ったのは…あなたですよ、部長。」

そんなことを言いつつ、部長から弁当を受け取り食べ始める。

ヴー、ヴー…。

"通知が来たな。"と思い確認すると、姫野さんからの個人トークの通知だった。

どうした? 何か心配なことあるか?

――――
[姫野 雅]
課長、ジャズお好きだったんですね!
私も、実は大好きなんです。
ただ、思ったより皆さん…今回がジャズデビューになる
人が多いみたいなので、今のところ…
本条課長が一番詳しくお話ができるかなと…。

今回の【飲み会】のセッティング
本当にありがとうございます。

白石先生にも「素敵なお店を紹介していただいて
ありがとうございます。」とお伝え下さい。
――――

あぁ、そういうことか。

――――
[本条 昴]
あぁ。もちろん、姉さんには伝えておくよ。
たぶん、姉さんの方が喜ぶと思うぞ。
「好評で何より。」ってな。

確かに、これからジャズデビューって
連中に深い話はできないよなー。
俺でいいなら、喜んで付き合うよ。
姫野さんとは結構話せそうだしな!

好きな曲とか聞いていいか?
――――

――――
[姫野 雅]
課長が、都内のジャズバーを網羅しつつあるっていう
お話がビックリしました!
それに「なんなら俺に聞いてくれて構わない。」って
言えるところが、すごいなぁ…と思いました。
ある程度行ってないと…言えませんからね。その一言。

好きな曲ですか? 秋を連想する"あの曲"が好きです。
――――

秋か…。
元は、シャンソン曲の【落ち葉】を連想する方か、【月】を連想する方か、どっちなんだろうな…。

――――
[本条 昴]
秋な。さすが良いセンスしてる。
"落ち葉を連想する方"の方か
【月に連れて行って】ほしい方か…どっち?
――――

――――
[姫野 雅]
どっちも好きです。(^_^)
でも、一曲選べって言われたら…
"落ち葉を連想する方"です。

課長のお好きな曲はなんですか?
――――

…フッ。返信、早いな。

――――
[本条 昴]
俺か? 俺はそれこそ、今話に出した
【月に連れて行く】"あの曲"が好きだよ。
――――

【飲み】に行くメンバーでのトークから始まった昼休みは、最終的に姫野さんとの個人トークを楽しむ流れになり、穏やかに過ぎていった。

その日の午後からも、外回りに出た者から特にトラブルの報告を聞き応援に行くことも無く、平和に過ぎていった。



さらに、それから4,5日は[新宿南総合病院]への【外回りデビュー】に向けて、姫野さんも津田も積極的に準備を進めていた。



そして気がつけば【飲み会】当日を迎え、【俺はもうすぐ退勤する時間】という頃になっていた――。

「では部長、後ほど店で。」

「ああ、お疲れ様。本条くん。」

俺は鳴海部長に一言声を掛け、その後フロアで仕事を続けている者にも声を掛け…18時に会社を後にして帰宅した。
そして準備を整え、[infini(アンフィニ)]へ向かった。


**


――午後6時40分。

――リンリン。

「いらっしゃいませ。」

「こんばんは。マスターの、中瀬(なかせ) (りつ)さんでしょうか?…19時から11名で予約をお願いした、本条 昴です。」

「はい。僕が責任者の中瀬です。……あぁ、あなたが“なぎちゃんの弟の昴さん”ね。彼女から話は聞いてるよ。ひとまずカウンターへどうぞ。」

中瀬さんにカウンターへ通されたので、彼の前のスツールに腰を下ろした。


“なぎちゃん”か……。
結構、常連なんだな。姉さん。


オレンジ色の間接照明に照らされた店内にはおそらく10人ぐらいは座れるカウンター席と、5つほどのテーブル席があって、壁には彼が撮ったのか…購入したものか【海外の名所】の写真も飾られている。
またテーブル席の奥には、黒のアップライトピアノとウッドベースが置かれていた。

そして、BGMはもちろんジャズだ。今は耳馴染みのある有名どころの曲が流れている。

「姉がよくこちらでお世話になっているようで。それに、今日は【貸切】なんて無理まで聞いていただいて…。」

「いやいや。むしろ僕の方が“なぎちゃん”に癒してもらってるよ。…良いんですよ、そんなの。〈PTSD〉のことを第三者に聞かれる方が問題ですから。」

そう言って、中瀬さんはにこやかに笑う。
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