男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
「やっぱ…俺もちょっと崩してくればよかったー!冒険するの怖かったんですよ、初めてくる店だから。課長も…上は樹と同じコーディネートなのに、なんか違う…。何が違うんだ?…オーラ?」
フッ、オーラって…。
「オーラは正解じゃないかな。本条さん自身は"え?"って顔してるけど…。あとはシャツのボタン開けてたり、時計してるからじゃないかな。…30代の【20代より少し落ち着いてる雰囲気】は、20代では出せないから…3人が敵わないところかもね。…話の途中でごめんね。飲み物、何かお作りしましょうか?」
「えっと…。」
「3人ともバーは初めてなんだっけ?…普段は居酒屋かな?」
「はい。俺と桜葉は、居酒屋でビールばっかりです。」
「いいよ。普段通りの呼び方で、観月さん。普段は桜葉さんを“樹”って呼んでるんでしょう?…ビールも、もちろんあるよ。それにする?」
「あっ、じゃあ…そうします。」
さすがはマスター。
【バーデビューのお客様】に対しての対応が丁寧で分かりやすい。
これは2人とも気が楽になっただろう。
「津田さんは?…何かで迷ってる?…というか、悩んでるかな?…お酒のことなら、何でも言ってみてね。」
「あの、僕。正しいお酒の飲み方、分かんなくて…。大学の時に先輩に一気飲みさせられて、2回ぐらい。それから【飲み会】ではソフトドリンクしか飲まなくなりました。怖かったんです。…それと、その2回だけでの判断ですけど、あんまり強くないと思います。…吐いちゃったので。」
あー。一気飲みさせられた挙句に吐いたのか。それは良い思い出にはならないな。
「それは先輩が無責任でバカだな。きっと津田の周りには“飲みの席に向いてる本当の酒好き”が居なかったんだな。安心しろ。今日は俺や部長なんかの…“飲み方を知ってる本当の酒好き”が居る。そんな人たちは、絶対に無理に煽らないから。アルコールが無理だと分かったら、むしろ…絶対に止めに入る。酒の飲み方…ちゃんと教えてやるよ。」
「ホントに…。それは嫌な思い出になったね。……よし。それじゃ、今日はそれを払拭できるようにお手伝いしようか!」
中瀬さんも思うところがあったようで、俺に続いて津田にそんな言葉を掛けてくれていた。
「…払拭できますか?」
「できるよ。僕はこれでも【お酒提供のプロ】だよ?…任せて。それより。大学生で飲んだ時、意識無くなったりしなくて良かったね。急性アルコール中毒、本当に危険だからさ。」
「はい。本当に…。」
津田は少し当時を思い出すように、表情を変えて返答していた。
「さて、津田さん。まずはコレいってみようか。……カシスソーダです。とりあえず薄めには作ったから大丈夫だと思うけど、【苦味】が強かったら教えてね。…少しずつ飲むと良いよ。…4人分の【おつまみ】、すぐ用意しますね。…観月さん、桜葉さん。はい、ビールね。…本条さん、ウーロン茶入れましょうか?」
「マスターさん、ありがとうございます。」
「すみません、中瀬さん。忙しくさせてしまいまして…。…あっ、頂きます。」
俺はそう言いながら、中瀬さんからウーロン茶を受け取った。
「いいえ、とんでもない。普段10人ぐらい同時にお客様相手にしてるので――。」
――リンリン。
「いらっしゃいませ。」
「ごめんね、ごめんね!姫野さん!」
ドアベルが鳴ったことで、その方向を向いたというのはあるが…"なぜ“鳴海先輩”が姫野さんに謝ってるんだ?"と思い様子を見ていると、姫野さんが腕や首元を軽くポンポンと叩いていて、そこに【赤み】が指しているのが…何となく見える。
蕁麻疹、出たか。
俺はスツールから降りて、姫野さんたちの元まで行った。
「いえ、私は本当に大丈夫ですから。どうかお気になさらないで下さいね、鳴海部長。」
「鳴海部長、落ち着いて下さい。姫ちゃんが『大丈夫。』って言い切った時は【本当に大丈夫な時】が多いから大丈夫です。逆に【本当に拒絶してしまう時】は、姫ちゃんの体が強張ったり…震え出したり、顔面蒼白になったり…別の症状も出ます。」
――鈴原。
さすがは会社から病院への付き添いの際に花森さんが何度か呼びに来ただけあるし、姫野さんと付き合いが長いだけあるな。
「でも、蕁麻疹が……。」
「“鳴海先輩”。俺が触れても彼女の蕁麻疹は出ますよ。それより、あなたが動揺しててどうするんですか。姫野さんが安心できないでしょう。……姫野さん。【どうして症状が出たのか】…状況を教えてくれないか?」
「はい。でも、その前にマスターに…――っ。」
姫野さんの体が強張ったのが分かる。それを鈴原は瞬時に感じ取り、しっかり腰を抱いて支える。
明らかに、中瀬さんの方を見て…驚いてるな。【初対面の男性】だから反応したのか、意図せず無意識で…というのか、潜在的意識で反応してまったのか…。
「ご、ごめんなさいっ!えっと…あっ、中瀬さん。渚さんから聞いてはいますし、体が変に驚かないようにと思って…【初対面の男性に会う時のイメージトレーニング】、久しぶりにしながら来たんですけど…。頭では認識してるつもりなんです、"怖くない"って。でも――。」
「反応しちゃったんですね、姫野さん。大丈夫ですよ、私のことは気になさらず。…そうでしたか、私に会うからイメージトレーニングしてくれたんですね。ありがとうございます。さて。姫野さんが【私に伝えたいこと】が何かあるようなのでお伺いしますが、その前に…【準備】してくるので待ってて下さい。……本条さん、1分だけここをお願いして良いですか?…“まだ来てない方たち”が来たら教えて下さい。」
「はい、分かりました。」と言った俺に対し、中瀬さんはすれ違い様…こう告げた。
「姫野さんへの接し方、パーフェクトですね。さすがは“彼女や観月さんたちが頼りにしてる上司さん”ですね。…すぐ戻ります。」
中瀬さん……参ったな。
そして、1分後に戻ってきた彼は…白衣姿だった。
しかし姫野さんとの距離詰めず、ホールと廊下を繋ぐドアのところで止まっている。
…これは? どういうことなんだろう?
何か、狙いがあるとは思うが…。
「…あっ。ドクター…先生だ。」
…あっ、姫野さんの表情が【安堵の表情】になった。
「あっ、表情が柔らかくなりましたね!やっぱり白衣持ってきて正解だった。」
すごいな、中瀬さん。
姫野さんに何かあった時、対応できるようにすでに考えてくれていたんだ。
「えぇぇぇっ!?マスター、医者だったんですか?」
姫野さんと俺以外のメンツは…まぁ、当然といえば当然だが驚きの声を上げる。
「そうですね、本職は【医者】です。皆さん…ちょっとお静かに願えますか?…姫野さんが大きな声や音が苦手ということも考えられますので。」
「あっ、そうだ。確か、姫野さんは苦手だったはず。」
「あっ、すみません。俺たち…。」
“鳴海先輩”がそう口にしたので、観月たちは慌てて静かになった。
フッ、オーラって…。
「オーラは正解じゃないかな。本条さん自身は"え?"って顔してるけど…。あとはシャツのボタン開けてたり、時計してるからじゃないかな。…30代の【20代より少し落ち着いてる雰囲気】は、20代では出せないから…3人が敵わないところかもね。…話の途中でごめんね。飲み物、何かお作りしましょうか?」
「えっと…。」
「3人ともバーは初めてなんだっけ?…普段は居酒屋かな?」
「はい。俺と桜葉は、居酒屋でビールばっかりです。」
「いいよ。普段通りの呼び方で、観月さん。普段は桜葉さんを“樹”って呼んでるんでしょう?…ビールも、もちろんあるよ。それにする?」
「あっ、じゃあ…そうします。」
さすがはマスター。
【バーデビューのお客様】に対しての対応が丁寧で分かりやすい。
これは2人とも気が楽になっただろう。
「津田さんは?…何かで迷ってる?…というか、悩んでるかな?…お酒のことなら、何でも言ってみてね。」
「あの、僕。正しいお酒の飲み方、分かんなくて…。大学の時に先輩に一気飲みさせられて、2回ぐらい。それから【飲み会】ではソフトドリンクしか飲まなくなりました。怖かったんです。…それと、その2回だけでの判断ですけど、あんまり強くないと思います。…吐いちゃったので。」
あー。一気飲みさせられた挙句に吐いたのか。それは良い思い出にはならないな。
「それは先輩が無責任でバカだな。きっと津田の周りには“飲みの席に向いてる本当の酒好き”が居なかったんだな。安心しろ。今日は俺や部長なんかの…“飲み方を知ってる本当の酒好き”が居る。そんな人たちは、絶対に無理に煽らないから。アルコールが無理だと分かったら、むしろ…絶対に止めに入る。酒の飲み方…ちゃんと教えてやるよ。」
「ホントに…。それは嫌な思い出になったね。……よし。それじゃ、今日はそれを払拭できるようにお手伝いしようか!」
中瀬さんも思うところがあったようで、俺に続いて津田にそんな言葉を掛けてくれていた。
「…払拭できますか?」
「できるよ。僕はこれでも【お酒提供のプロ】だよ?…任せて。それより。大学生で飲んだ時、意識無くなったりしなくて良かったね。急性アルコール中毒、本当に危険だからさ。」
「はい。本当に…。」
津田は少し当時を思い出すように、表情を変えて返答していた。
「さて、津田さん。まずはコレいってみようか。……カシスソーダです。とりあえず薄めには作ったから大丈夫だと思うけど、【苦味】が強かったら教えてね。…少しずつ飲むと良いよ。…4人分の【おつまみ】、すぐ用意しますね。…観月さん、桜葉さん。はい、ビールね。…本条さん、ウーロン茶入れましょうか?」
「マスターさん、ありがとうございます。」
「すみません、中瀬さん。忙しくさせてしまいまして…。…あっ、頂きます。」
俺はそう言いながら、中瀬さんからウーロン茶を受け取った。
「いいえ、とんでもない。普段10人ぐらい同時にお客様相手にしてるので――。」
――リンリン。
「いらっしゃいませ。」
「ごめんね、ごめんね!姫野さん!」
ドアベルが鳴ったことで、その方向を向いたというのはあるが…"なぜ“鳴海先輩”が姫野さんに謝ってるんだ?"と思い様子を見ていると、姫野さんが腕や首元を軽くポンポンと叩いていて、そこに【赤み】が指しているのが…何となく見える。
蕁麻疹、出たか。
俺はスツールから降りて、姫野さんたちの元まで行った。
「いえ、私は本当に大丈夫ですから。どうかお気になさらないで下さいね、鳴海部長。」
「鳴海部長、落ち着いて下さい。姫ちゃんが『大丈夫。』って言い切った時は【本当に大丈夫な時】が多いから大丈夫です。逆に【本当に拒絶してしまう時】は、姫ちゃんの体が強張ったり…震え出したり、顔面蒼白になったり…別の症状も出ます。」
――鈴原。
さすがは会社から病院への付き添いの際に花森さんが何度か呼びに来ただけあるし、姫野さんと付き合いが長いだけあるな。
「でも、蕁麻疹が……。」
「“鳴海先輩”。俺が触れても彼女の蕁麻疹は出ますよ。それより、あなたが動揺しててどうするんですか。姫野さんが安心できないでしょう。……姫野さん。【どうして症状が出たのか】…状況を教えてくれないか?」
「はい。でも、その前にマスターに…――っ。」
姫野さんの体が強張ったのが分かる。それを鈴原は瞬時に感じ取り、しっかり腰を抱いて支える。
明らかに、中瀬さんの方を見て…驚いてるな。【初対面の男性】だから反応したのか、意図せず無意識で…というのか、潜在的意識で反応してまったのか…。
「ご、ごめんなさいっ!えっと…あっ、中瀬さん。渚さんから聞いてはいますし、体が変に驚かないようにと思って…【初対面の男性に会う時のイメージトレーニング】、久しぶりにしながら来たんですけど…。頭では認識してるつもりなんです、"怖くない"って。でも――。」
「反応しちゃったんですね、姫野さん。大丈夫ですよ、私のことは気になさらず。…そうでしたか、私に会うからイメージトレーニングしてくれたんですね。ありがとうございます。さて。姫野さんが【私に伝えたいこと】が何かあるようなのでお伺いしますが、その前に…【準備】してくるので待ってて下さい。……本条さん、1分だけここをお願いして良いですか?…“まだ来てない方たち”が来たら教えて下さい。」
「はい、分かりました。」と言った俺に対し、中瀬さんはすれ違い様…こう告げた。
「姫野さんへの接し方、パーフェクトですね。さすがは“彼女や観月さんたちが頼りにしてる上司さん”ですね。…すぐ戻ります。」
中瀬さん……参ったな。
そして、1分後に戻ってきた彼は…白衣姿だった。
しかし姫野さんとの距離詰めず、ホールと廊下を繋ぐドアのところで止まっている。
…これは? どういうことなんだろう?
何か、狙いがあるとは思うが…。
「…あっ。ドクター…先生だ。」
…あっ、姫野さんの表情が【安堵の表情】になった。
「あっ、表情が柔らかくなりましたね!やっぱり白衣持ってきて正解だった。」
すごいな、中瀬さん。
姫野さんに何かあった時、対応できるようにすでに考えてくれていたんだ。
「えぇぇぇっ!?マスター、医者だったんですか?」
姫野さんと俺以外のメンツは…まぁ、当然といえば当然だが驚きの声を上げる。
「そうですね、本職は【医者】です。皆さん…ちょっとお静かに願えますか?…姫野さんが大きな声や音が苦手ということも考えられますので。」
「あっ、そうだ。確か、姫野さんは苦手だったはず。」
「あっ、すみません。俺たち…。」
“鳴海先輩”がそう口にしたので、観月たちは慌てて静かになった。